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「磁気」という言葉と「磁性」という言葉の意味は同じであるとする文献もあれば、異なる意味であると説明する文献も見られます。
2つの言葉の意味が同じであるならば、なぜ「地磁気」や「磁気ディスク」のことを「地磁性」や「磁性ディスク」とは呼ばないのでしょうか。電磁気学においても「磁気モーメント」は「磁性モーメント」とは呼ばれません。
逆の場合もそうです。「強磁性体」は「強磁気体」とは呼ばれません。
これらはただ単に便宜上の使い分けなのでしょうか。本当に「磁気」と「磁性」は全く同じ意味なのでしょうか。学問においては、言葉の定義が統一されていなければ、各人の認識に食い違いが生じてしまいます。
Yahoo!Japan の提供するサービス「Yahoo!辞書」から複数の辞典の情報を比較することで、これらの違いを調べてみました。
結論のみを知りたいという方はこちらをクリックしてください。記事の最後にジャンプします。
磁気の意味
「大辞林 第三版」による磁気の説明は以下の通りです。
鉄片を引き付けたり、南北を指したりする、磁石に特有な物理的性質。正確には、磁荷は存在せず、運動する電荷が磁場を形成し、また逆に磁場が運動する電荷に力を及ぼすことによって磁気現象が起こる。
磁気(じき)とは – コトバンク(三省堂 大辞林 第三版)
この辞書の説明によれば、磁気は磁石に特有の性質であるとされます。
「世界大百科事典 第2版」による説明は以下の通りです。
磁石は鉄,コバルト,ニッケルなどのいわゆる強磁性体を引きつけるが,このような現象の根源となるものを磁気という。また広くはこれらの現象そのものをいう場合も多く,磁石に近づいた強磁性体も一時的に磁石になるから,これは磁石と磁石とが力を及ぼし合う現象であるということもできる。
磁気(じき)とは – コトバンク(世界大百科事典 第2版)
この辞書の説明によれば、磁石の性質の源およびそれによって起こる現象自体のことを指すとされます。
磁石を近づけた金属も、磁石と同じ性質を示すことが知られていますが、そのことも指すということになります。
これは、磁気が磁石特有であるとする「大辞林 第三版」の説明よりも広い意味で磁気を捉えていると言えます。
「小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)」による説明は以下の通りです。
磁石に特有な物理的性質をいい、電気と並んで使われる。電気が電荷の意味に使われるのと同様に、磁気は磁荷の意味に使われることがある。「磁気を与える」はその例である。
…(中略)…
磁気がもっとも広く使われるのは、形容詞的な用法である。磁気モーメント、磁気構造などの概念は明確に定義でき、また磁気記録、磁気テープ、磁気ディスクなどは電子工学上の用語でもある。しかしながら「磁気」は明確に定義できるような用語ではなく、単独で使われることはしだいになくなりつつある。
磁気(じき)とは – コトバンク(小学館 日本大百科全書(ニッポニカ))
「大辞林 第三版」と同様に、磁気は磁石に特有の性質としていますが、加えて、その源となるものの意味でも使われるとしています。
電気(電流)は、電子の流れによって作られます。この電気の源になる電子のことは電荷とも呼びます。同様に、磁気の源になると考えられているものを磁荷と呼びます(実際には、現時点で明確な磁荷となるものの存在は確認できていません)。
(電気や電流についての詳しい説明はこちらの記事をご覧ください → 電気のはなし(1)電気とは何か)
総合すると、上記の2つの辞書の意味を含んだ説明であると言えます。この辞書は、さらに言葉の使われ方についても言及しています。
個人的には、最後の「単独で使われることはしだいになくなりつつある」という部分には疑問を持ちました。筆者自身、電磁気を専門とする学問を学ぶ場にいた経験がありますが、単独で使われている場合は多々あった記憶があります。定義できない「磁気」という言葉があらゆるところで使われているからこそ、不要な理解の妨げを生んでいるように感じます。
以上を総合すると、磁気の意味は以下のようになります。
- 磁石に特有な物理的性質のこと
- 磁石の性質の源(磁荷)のこと
- 磁石の性質によって起こる現象自体のこと
磁性の意味
次に「磁性」の意味についてです。
「大辞林 第三版」による磁性の説明は以下の通りです。
磁気を帯びた物質が示す性質。常磁性・強磁性・反磁性などがある。
磁性(じせい)とは – コトバンク(大辞林 第三版)
「磁気を帯びる」というのは、先ほどまとめた磁気の意味を考えると「磁石に特有な物理的性質を持つ」という意味であると言えます。
つまり「磁石に特有の性質を持った物質が示す性質」が「磁性」である、というのがこの辞書の説明となります。
「世界大百科事典 第2版」による磁性の説明は以下の通りです。
物質の磁気的性質。磁石に近づけたとき,物質が示す性質はその例である。このとき著しい性質を示すのは強磁性と呼ばれる磁性を有する物質(強磁性体)で,自身も磁極をもち,磁石となって互いに力を及ぼす。
磁性(じせい)とは – コトバンク(世界大百科事典 第2版)
物質の磁気的性質、つまり、物質が持つ磁石に特有の性質です。磁石を近づけた金属が示すのは「磁性」ということになります。
ややこしいですが、「磁石が持つ性質によって引き起こされる性質」が磁性というわけです。
磁石に近づけられた金属は、磁石と同じ性質を持ちます。そういう意味では、確かに 磁気 = 磁性 ということができます。
次の「小学館 デジタル大辞泉」は少し違った角度からの説明をしています。
物質が磁界内で磁化される性質。また、磁気を帯びた物質が示す種々の性質。
磁性(じせい)とは – コトバンク(小学館 デジタル大辞泉)
前半部分の説明は、他の辞書と違い、より電磁気学的な説明です。
磁石や電流は磁界(磁場)を形成します。これによって金属などの物質は磁石が示す性質(つまり磁性)を持つわけですが、このように他の物質に磁性を持たせることを「磁化する」と言います。
つまり、ある物質が、磁石が持つ性質を持たされる性質(磁性の持ちやすさ)のことを「磁性」と呼ぶ、というのがこの辞書の説明です。
実際に、強磁性体とは、磁石を近づけたりすると磁石になりやすい性質を持つ物体のことを指しています。
確かにそう考えると、強磁性体を強磁気体とは呼べないということがはっきり分かります。他の物体が持つ磁気の影響を受けることで強い磁性を持つのが強磁性体であって、それ自身が必ずしも磁気(磁気の源)を持っているわけではないためです。
後半部分の説明は、他の辞書と同じです。
以上を総合すると、磁性とは以下の意味であると言えます。
- 磁石に特有な物理的性質(磁気)を持った物質が示す性質
- 他の物質が持つ磁気によって、自らも磁気を持つ性質(または、その性質の持ちやすさ)
つまり、磁気自体というよりは、磁気によって引き起こされる様々な性質のことを指す言葉であるといえます。
まとめ
磁気と磁性の意味を以下にまとめます。
磁気の意味
- 磁石に特有な物理的性質のこと
- 磁石の性質の源(磁荷)のこと
- 磁石の性質によって起こる現象自体のこと
磁性の意味
- 磁石に特有な物理的性質(磁気)を持った物質が示す性質
- 他の物質が持つ磁気によって、自らも磁気を持つ性質(または、その性質の持ちやすさ)
以上のように、広い意味でとれば、一部の意味は 磁気 = 磁性 と取れる部分もありますが、厳密に言えば異なる意味であると言えます。
以上、磁気と磁性の違いについてでした。