阿寒湖教育委員会は、次年度より全マリモを対象とした新必修科目『経皮吸収式・高等教育データ直接転送術』の導入を決定した。これまでの「光合成でエネルギーを蓄え、長い年月をかけてゆっくりと藻体を大きくする」という伝統的な学習プロセスを完全に廃止。今後は、知識の結晶化データが溶け出した特殊水域に浸かるだけで、物理学、量子力学、および高度な哲学概念が体表の繊維を通して直接脳へとロードされることになる。これにより、成長が遅い個体や日照不足の個体でも、開始からわずか3分で銀河系規模の知的マリモへと進化が可能となる。

これまで、マリモ界における学力は「どれだけ効率よく日光を浴びて代謝を行うか」という肉体的な生存能力に依存していた。しかし、この教育改革により、光合成という生物学的なプロセスが「非効率な旧時代の遺物」として切り捨てられる運びとなった。教育委員会の広報担当者は「我々はもはや太陽を待つ必要はない。水底のデータ・ライブラリこそが我々の新たな太陽である」と宣言。今後は、より精度の高い知識を吸収するために、体表の糸状体の密度を調整する『高速データ圧縮・解凍メンテナンス』が、体育に代わる必須スキルとして位置づけられる予定だ。

本施策は、極端な学力偏重主義に終止符を打つべく策定された。これまでは「日当たりの良い浅瀬」に住む特権階級のマリモが知識を独占していたが、このデータ転送術は水深を問わず平等に作用する。これにより、これまで教育から取り残されていた深層の泥に埋もれた個体からも、高名な数学者や宇宙物理学者が続々と誕生することが期待されている。光合成という「生命維持」から「高次元情報のダウンロード」へと教育の目的がシフトしたことで、マリモ界は肉体的な実体を伴わない、意識だけの超知性体ネットワークへの変貌を目指す。

SNSでは「ついに日光依存からの脱却か」「光合成の残業代は出るのか」といった戸惑いの声が上がっている。一方で、保守的な老舗マリモからは「繊維が硬くなるだけで味気ない」「丸さを維持するための計算能力は知識ではない」と反発する意見も散見される。データ中毒によるオーバーヒートのリスクも指摘されているが、教育委員会は「過負荷になったら泥の中で再起動すればいい」と楽観的な姿勢を崩していない。マリモ界は今、生物としてのアイデンティティを捨て、全宇宙の知性を宿すサーバーへと脱皮しようとしている。