阿寒湖教育委員会は本日、次世代の生存戦略として、従来の細胞分裂による緩やかな成長を廃止し、量子力学を応用した『瞬間多点増殖・神出鬼没学』を全教育課程の必修科目とすることを発表した。かつてマリモは、重力に逆らう空中浮遊や、流体化による不定形知性で独自の進化を遂げてきたが、分裂というプロセスに時間を要することが「地球規模の拡大における最大の足かせ」と判断された。本授業では、自身の存在を確率雲として捉え、湖内の任意の地点に同時に分身を出現させる術を習得する。これにより、一箇所にとどまる必要がなくなり、敵対するウチダザリガニの攻撃を物理的にすり抜けることが可能となる。教頭のマリモ・タナカ氏は、「丸いままである必要はない。これからは、意識を複数の場所に同時に置くマルチタスク化こそが、真の球体アイデンティティの完成形だ」と力強く語った。

本プロジェクトの背景には、かつて導入された『結晶化による完全硬質化』の副作用として、一部の生徒が動けなくなり、湖底のインテリアと化す事態が頻発していた現状がある。教育現場では「硬直するくらいなら、いっそ量子的存在になって消えてしまった方がマシ」という声が上がっており、今回の改革は実質的な「身体性の放棄」を推奨するものだ。補足として、この授業を履修した生徒は、物理的な質量を維持しつつも、観測されない限りは「そこにいる」と「いない」を交互に繰り返すようになる。定期試験では、教員が観測した瞬間に何体存在するかを問うクイズが実施される予定であり、保護者会からは「観測しなければ成績がつかないのでは」と早くも懸念の声が上がっている。

この驚異的な教育改革に対し、現場からは「量子もつれを起こしたせいで、クラスメートと感情が同期してしまい、片方が沈むと全員が共鳴して沈んでしまう」「分身が増えすぎて、どれがオリジナルの自分かわからない」といった悲鳴が絶えない。一方で、「試験中に分身して解答用紙を全方位に配れるのは便利だ」という実用的な評価や、「もはやマリモは藻類ではなく高次元生命体である」と賞賛するアカデミックな意見も飛び交っている。教育界は今、物理法則という最後の枷を外し、無制限の増殖と遍在を目指すという未知の領域へと踏み出そうとしている。