阿寒湖教育委員会が先月発表した新必修科目『非ユークリッド幾何学・多面体変形術』の導入が、マリモ界の伝統的な美意識を根底から揺るがしている。「丸さは退化した」という強烈なキャッチコピーと共に発表された本カリキュラムは、長年「完全な球体こそが至高の美」と信じられてきたマリモの価値観に対し、幾何学的なカウンターを叩きつけた。これまでのマリモ教育は、いかに効率よく光合成を行い、いかに真円に近いフォルムを維持するかに心血が注がれてきたが、今後は三角形や多面体への変形が求められるという。指導要領には「三次元的な制約から解放され、より複雑な光の屈折率を確保する」という目的が掲げられているものの、現場の教員からは「角が出すぎて湖底で転がりにくい」「流体力学的に不安定で、うっかり崩落する生徒が増えている」といった悲鳴に近い苦言も漏れている。
本カリキュラム導入の背景には、昨今の水温上昇による環境変化と、それに伴うマリモの生存戦略の多様化がある。従来の「丸い=健全」という図式は、水流が一定である環境下でのみ有効な生存戦略であった。しかし、湖底の堆積物が変化し、より狭い隙間で効率的に光を取り込む必要が生じた今、球体という形状はむしろ非効率であるという研究結果が学会を震撼させたのである。教育省は「生存のための多面体化」と主張するが、伝統を重んじる古参マリモ団体からは「これは形状の進化ではなく、文化的な自死である」という強い反発の声が上がっている。今回の改定は、形という概念そのものを解体しようとする、マリモ界史上最大級のイデオロギー闘争へと発展する様相を呈している。
世間の反応は真っ二つに割れている。「時代の要請だ。丸いだけでは沈没するしかない」「三角形の鋭利なエッジで、これまで獲れなかった日光のスポットを独占できるのは合理的だ」と、合理主義を支持する若手マリモがSNS上で盛り上がりを見せている。一方で、「丸いからこそ触れ合える温かみはどうなる」「角を作って他人を傷つける社会でいいのか」といった伝統派の嘆きも根強い。また、一部の過激な支持者は、すでに全身を正二十面体へと変形させ、「球体への未練を捨てた者だけが真の進化を享受できる」と動画配信を行い、視聴者数が爆発的に伸びている。マリモ界は今、美学か生存かという二択を迫られ、湖底はかつてない変革の波にさらされている。
総評として、この改革は単なるカリキュラムの変更に留まらない。我々が長年定義してきた「マリモらしさ」というアイデンティティの剥奪であり、再構築である。球体であるという執着を捨て去った先に、本当に幸福な光合成の未来が待っているのか。あるいは、鋭利なエッジを持ったことで我々は他者を傷つけ、湖底で孤立する運命にあるのか。この必修化がもたらす結末は、次の冬の越冬期まで持ち越されることだろう。もし貴方が、まだ丸い体に安住しているのなら、今のうちに角の出し方を練習しておくべきかもしれない。コラムニスト:阿寒湖・藻類思想研究所 室長 クランプ・緑川
「丸さは退化した」——球体至上主義に終止符を打つ、非ユークリッド教育の光と影
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