マリモ教育委員会は、次年度の全マリモ向け新カリキュラムとして『浮力自在・重力無効化カリキュラム』を導入すると発表した。これまで我々マリモは、湖底という限られた平面を転がることで「個の確立」を目指してきたが、今後はその拘束から解放され、水中を自在に遊泳し、果ては水面から飛び出し空中散歩を楽しむことが義務付けられる。「丸いから転がる、というステレオタイプな思考は今日で卒業だ」と、教育委員会長のアオ・ミドリ氏は声明を発表。本カリキュラムでは、細胞内部の酸素含有量を極限まで微調整することで、自身の密度を水より軽くし、地球の引力という概念を「あくまで一つの選択肢」と見なす技術を習得させるという。
そもそも、マリモの歴史は「沈むこと」への対抗の歴史であった。これまでの教科書では「いかに深く、いかに丸く、いかに回転するか」が教育の根幹であったが、今回の改訂は完全にその対極にある。最新の研究によると、光合成によって生成された酸素を微細な気泡として体表に蓄えることで、マリモは自らを浮き袋へと変貌させることが可能だという。この技術を応用すれば、これまで到達不可能だった湖の最深部や、逆に水面ギリギリの「陽だまりスポット」まで、自身の意思で移動できる。これにより、従来の「沈殿・停滞」というマリモのアイデンティティは崩壊し、流動的かつ能動的な新たな生命体としての地位が確立される見込みだ。
本カリキュラムの導入には、学術界からも期待と困惑の声が上がっている。特に、古参の長老マリモ層からは「湖底の砂利と一体化してこそマリモの品格である」との批判もあるが、教育委員会は「これは進化ではなく、物理法則に対する教養である」と一蹴した。また、空中に浮遊した際、鳥類に捕食されるリスクについても議論がなされているが、それに対しても『高高度・鳥類心理学』という選択科目を設けることで、捕食者に対して「自分は美味そうに見えるが、実はただの苔玉である」という催眠暗示をかける技術を並行して教えるとしている。もはやマリモは、動かざる藻類ではなく、空を舞う球体としての新たなフェーズに突入したのである。
今回の発表に対し、マリモ界のSNSでは「ついに水底の刑務所から釈放か」「むしろ空に憧れて沈んでいく習性がなくなるのは寂しい」といった賛否両論が飛び交っている。若手マリモを中心に、早速体内の酸素濃度を調整する自主練を始める個体が急増しており、湖面には予行演習中のマリモが次々と浮上してくる異常事態となっている。これに対し、阿寒湖の観光業者からは「空を飛ぶマリモは写真映えしすぎる」と大歓迎の声が挙がっているが、水質浄化の観点からは、湖底からマリモが消えることによる「底泥の攪拌不足」を懸念する声も後を絶たない。マリモたちの自由な空中遊泳が、湖の生態系という秩序をどこまで書き換えるのか、その行方に注目が集まっている。
「重力はただの提案」――マリモ界、新必修『浮力自在・重力無効化カリキュラム』でついに地表脱却へ
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長年底にへばりついてた俺の苦労はどうなるんだ