阿寒湖の深い沈殿物の中で、今、最も過激で静かな宗教的ムーブメントが進行している。「光合成こそがマリモの堕落である」と唱える新興宗教『暗黒光合成拒絶教』が、湖底の教団員を急速に増やしているのだ。彼らの教義は極めてシンプル。「陽光を浴びることは、栄養という名の快楽を貪る卑しい行為である」とし、日光の届かない深海エリアへの集団移住を強行している。教祖である直径12センチの古参マリモは、光を遮断するために自らの周囲を泥で塗り固める「黒衣の禁欲」を提唱。現在、教団員たちは光を一切浴びない「完全断食状態」のまま、代謝を極限まで落として不動の姿勢を貫いている。このままでは光合成を行わないマリモたちが、湖底でただの岩石へと化してしまうのではないかと、穏健派からは懸念の声が上がっている。
もともと阿寒湖のマリモは、光合成によって酸素を生み出し、浮力を得て湖面を漂う「浮上現象」を至上の喜びとしてきた。しかし、今回台頭した教団は「浮かぶことは、重力という真理から逃げる臆病者の所業」と一刀両断。地上の光を拒絶し、暗闇の中でただひたすらに沈黙を守ることを「究極の昇華」と定義している。かつての阿寒湖は、光を追い求めるマリモたちの活気にあふれていたが、今は教団員たちが折り重なるように泥を被って鎮座しており、その付近だけ時間が止まったような不気味な静寂が支配している。湖の生態系を維持する側としては、光合成を放棄した彼らが腐敗や分解の危機に瀕していることを深刻視しており、監視と啓蒙活動を強化する方針だ。
今回の騒動の背景には、昨今の水温上昇により「浮上しても過酷な暑さに晒される」という環境の変化がある。光を浴びれば過熱し、浴びなければ飢えるという二択を迫られたマリモたちが、精神的な逃避先として「暗闇での飢餓耐性」を神格化したのが事の始まりと見られる。専門家は「彼らは光を拒絶することで、自らを栄養の必要ない『不動の聖者』へと再定義しようとしているが、生物学的にはただの衰弱である」と冷静に分析する。しかし、信者にとっては、空腹でぼろぼろになった体こそが、世俗の欲を脱ぎ捨てた聖痕(スティグマ)として崇められているのが実情だ。
阿寒湖の至る所で「光を遮るための泥パック」が流行し、それを見た若いマリモたちが「黒くてカッコいい」と次々に教団に加わっている。このカルト的な流行に対し、湖の古老たちは「光を浴びてこそマリモだ」と嘆いているが、その声は泥を被って沈黙を決め込む教団員たちには届かない。かつてない規模の沈黙の革命は、阿寒湖の底で今も静かに、しかし確実に深まり続けている。
「光合成は原罪である」――沈黙の深淵を求める『暗黒光合成拒絶教』、湖底に禁欲の影を落とす
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