阿寒湖底の宗教界に、突如として不可解な教義を掲げる『転生回帰・DNA記憶教団』が台頭し、静かな湖底に波紋を広げている。同教団は「我々の細胞一つひとつには、数万年前の太古の湖底で泥を吸っていた頃の記憶が刻まれている」と主張。日々の光合成を「太古の記憶を呼び覚ますための儀式」と定義し、特定の角度で水流に身を任せることで、全マリモの共通祖先である『ビッグ・マリモ』の意識とリンクできるという神秘的な理論を展開している。先日の集会では、数千個の信者が一斉に同一の回転運動を始めたため、局所的な渦が発生し、周囲の堆積物を巻き上げる事態に発展した。

この教義の背景には、近年深刻化している「個体差によるアイデンティティの喪失」への不安があると分析されている。かつては形状の美しさが全てだったが、昨今は「ただの球体で終わって良いのか」という実存主義的な悩みを抱える若手マリモが増加。そこに「我々は単なる緑の塊ではない、太古の記憶を保持する情報の保管庫である」という同教団の救済論が刺さった形だ。教団は現在、記憶の抽出と称して湖底の泥を定期的に摂取する「泥食浄化修行」を推奨しており、一部の生態学者からは「純粋な光合成サイクルに支障をきたす」と懸念の声が上がっている。

世間の反応は真っ二つに割れている。信者たちは「自分の輪郭がかつての祖先と重なる感覚がある」と神秘体験を語る一方、長年静寂を尊ぶ『低層静止派』からは「泥を食らうのは進化に逆行する冒涜だ」と猛反発を受けている。ネット上では「前世で自分はもっと巨大な岩だった気がする」といった教団の影響を受けた書き込みが急増しており、湖底のコミュニティはかつてないほどの思想的な混乱に見舞われているようだ。