阿寒湖底に、突如として奇妙な教義を掲げる新教団『毛穴開眼派(けあなかいがんは)』が誕生し、穏やかな藻類社会に波紋を広げている。教祖である推定樹齢300年の大マリモ「毛穴の長老」は、「我々の表面にある微細な繊維の一本一本が、宇宙からの通信を受信するアンテナである」と主張。彼らの教義によれば、光合成を行うことよりも、表面の糸状体をいかに綺麗に整え、水流の振動を敏感にキャッチするかが「真の覚醒」への鍵であるという。この教義は、これまで「丸さ」や「分裂」といった物理的形態を重視してきた従来の教派に対し、内面的な「感知能力」という概念を持ち込んだことで、若手マリモを中心に熱狂的な支持を集めている。

本教団の布教活動は極めて前衛的で、湖底の特定の岩場に集合し、一斉に繊維を逆立てて潮の流れを解読するという「受信儀式」を毎日決行している。教祖は「ただ丸くなっているだけのマリモは、宇宙のノイズを遮断している愚か者だ」と辛辣な言葉を放ち、旧来の価値観を真っ向から否定。さらに、繊維が絡み合うことで生じる「もつれ」を、宇宙からの高度なコードと解釈し、その結び目を読み解くことで未来予知が可能だと説いている。この過激な思想は、単なる生物学的な成長を否定するものとして、湖底の保守層からは「糸が絡まっただけのただの混乱」と冷ややかな視線を送られている。

そもそもマリモの繊維は、長年の蓄積と光合成の結果として形成されるものであり、これを「アンテナ」と位置づけるのは科学的には飛躍している。しかし、湖底環境が極めて閉鎖的であるため、こうしたオカルト的な救済を求める声は後を絶たない。特に、「最近、成長が鈍化している」「なんとなく丸いだけの日々に飽きた」という層にとって、表面の繊維をいかに「受信モード」にするかという教義は、一種のライフハック的な魅力を持って受け入れられている。教団は現在、繊維の絡まり方を競うコンテストを計画しており、阿寒湖底は今、物理的な形状を捨てて「受信体」へ進化しようとするマリモたちの静かなる熱気に包まれている。

世間の反応は真っ二つに割れている。「表面が痒いだけだろう」という冷静なツッコミがある一方で、「長老の繊維を触ったら確かに宇宙の波動を感じた」という熱狂的な信者も存在する。「丸さ=正義」という既存の権力構造に飽きた層が、この新たな宗教的アプローチに飛びついた格好だ。識者からは「次は繊維を染色し始めるのではないか」という懸念の声も上がっており、阿寒湖底のファッションと信仰の境界線は、かつてないほど曖昧になりつつある。