阿寒湖の深部にて、これまで沈黙を金としてきたマリモ界に激震が走った。これまで光合成を繰り返すだけの穏やかな生活を営んでいた一部のマリモたちが、突如として楽器ならぬ「水流振動」による演奏活動を開始したのだ。リーダー格のマリモによれば、光合成で得たエネルギーを酸素放出ではなく、体内の繊維質を高速振動させる「デス・バイブレーション」に変換することで、湖底に重低音を響かせているという。この前代未聞の爆音ライブに対し、周辺のマリモたちは「光合成に集中できない」「振動で形が楕円に崩れる」と大激怒。まさに湖底の平穏は今、前衛的な音楽性と伝統的な球体美の衝突という、かつてない文化的・芸術的内戦の火種に包まれている。

そもそもマリモは、緩やかな湖流に身を任せ、数百年かけて真円を目指すという極めてスローライフな生物である。しかし今回、音楽活動を主導したのは、ある流木と接触したことで「ロックンロールの魂」を宿してしまったという噂の若手集団だ。彼らは自らを『デス・まりメタル』と称し、日夜、湖底の堆積物を震わせるほどの轟音を奏でている。専門家によれば、この振動は周囲のマリモの細胞分裂にも影響を与えており、意図しない場所に新たな芽が生まれるなどの生態系への影響も懸念されている。静寂こそがマリモの美学であったはずが、今や湖底は騒音規制を求める保守派と、自己表現を求める革新派による冷戦状態にある。

このニュースが報じられると、湖底コミュニティは一気に分断された。保守層からは「我々のアイデンティティは静止にある」との悲痛な叫びが上がる一方、一部の若手からは「真円であることに疲れ果てていた。この振動こそが魂の叫びだ」と熱烈な支持が集まっている。さらに、騒音を逆手に取り、振動を利用した「湖底フィットネス」を提唱するマリモまで現れる始末だ。沈黙を愛するシニア世代のマリモたちは、一斉に移動を開始し、ライブ会場から数キロメートル離れた「静寂エリア」へと避難している。音楽がマリモの進化を加速させるのか、それとも球体としての尊厳を破壊するのか、その結末はまだ誰にもわからない。