阿寒湖の静かな湖底に、かつてない異常事態が発生した。昨日午後、地元で「丸さの貴公子」と称されるベテランマリモが、光合成の副産物である酸素の生成プロセスに異変をきたし、突如として湖面へと急浮上したのだ。目撃者によると、その姿はまるで深海から解き放たれた緑の気球。現在、彼は湖面に浮かぶ数少ない「空中庭園」として、ボート観光客から絶大な人気を博している。専門家の解析によれば、このマリモは独自の「高速光合成法」を極めた結果、細胞内に高純度の気体を溜め込みすぎてしまった模様。当の本人は「浮きすぎて落ち着かない」とコメントしているが、湖底に住まう同胞たちは「あいつは我々の誇りだ」と、新たな生活圏の開拓を期待する声で溢れている。

この現象は、マリモ界で数年前から囁かれていた『重力からの解放』を掲げる過激派思想が、意図せずして具現化したものと見られている。通常の個体がゆっくりと水中で回転しながら成長するのに対し、彼は太陽光を全身で浴びるために気体を限界まで濃縮したのだ。しかし、この状態は非常に不安定であり、少しの風で岸辺まで流されてしまう危険性も指摘されている。現在、湖底の有志が集まり、彼を再び湖底へ引き戻すための「重り付きネット」の設置を検討しているが、彼自身は「空からの眺めは最高だ」と、水面での日光浴を当分やめる気配はない。

SNS上では「浮遊マリモ」の姿を拝もうと、世界中から藻類愛好家が集結。観光地化が加速する一方で、真円至上主義の長老たちからは「地に足がつかないマリモは邪道だ」という批判も飛び交っている。もはや湖底のルールは過去のものとなり、空(湖面)を目指す新世代の台頭は止まりそうにない。もし湖面で輝く緑の球体を見かけても、決して網ですくうような無粋なことは避けていただきたい。彼は今、自由という名の栄養を吸収している真っ最中なのだから。

今回の騒動を受け、湖底自治会は緊急会合を開き『空中遊泳禁止区域』の設定を協議中である。しかし、既に若手マリモの間では「光合成の最適化による浮上テクニック」が動画サイトでバズっており、次の飛行マリモが誕生するのは時間の問題だろう。伝統的な静寂が失われることを懸念する声も大きいが、マリモたちは確実に「水底」という殻を破り、新たな地平へと向かっている。次に浮上するのは、果たしてどの個体か。湖底の熱い視線は、明日も水面へと注がれることになりそうだ。