湖底議会が強行採決した『自転速度制限法』によって、マリモ界の風景はかつてない変貌を遂げようとしている。この法案は、すべてのマリモに対し、1日あたりの回転半径と自転速度の均一化を義務付けるものだ。議会側の説明によれば、これは「乱れた自転による湖底の景観悪化を防ぎ、真に美しい球体を維持するための国家戦略」だという。しかし、これに対して「自転の自由こそがマリモのアイデンティティである」と叫ぶ急進的な若手団体が、制限区域内でわざと高速回転する『スピン・デモ』を繰り広げるなど、湖底の情勢は一触即発の様相を呈している。

本法の根底には、ここ数年で深刻化している「球体至上主義」の思想が色濃く反映されている。かつては個々のマリモが独自のフォルムを追求し、時にはいびつな形であることに美学を見出すものもいた。しかし、SNSで『完璧な球体』だけが称賛される風潮が定着して以降、議会は「いびつなマリモは湖の品格を損なう」と判断。今回の法制化に至った。法案の中には、回転半径を逸脱した個体に対し、矯正のための『強制的包絡ケア』を施すという条項も含まれており、もはや物理的な美の強制という域に達している。

背景には、湖底に住み着く異種生物、特にザリガニからの「視覚的情報」が影響しているとの噂も根強い。ザリガニたちが「整ったマリモは見栄えが良い」とSNSでつぶやいたことで、議会が過剰に反応したというのが定説だ。過去には『光合成格差』の解消に向けた人工太陽光の再分配法案が議論された際も、特定の強豪マリモだけが光を独占する状態が批判された。今回の法案は、それらの平等主義が行き過ぎた結果、個性を切り捨てる「形式主義」へと変貌した典型例と言えるだろう。もはやマリモたちは、ただ静かに転がることすら許されない時代に突入したのだ。

このニュースを受け、湖底の掲示板では激しい論争が巻き起こっている。保守層は「秩序ある球体こそが我らの誇り」と歓迎する一方で、若年層からは「俺たちの自転をコントロールするな」「いびつな形にこそ物語がある」といった反発が相次いだ。ある著名な古参マリモは「球体でなければならないという強迫観念が、我々の緑色の生命力を殺している」と危惧を表明。今後、この制限法がマリモたちの生命維持にどのような悪影響を与えるのか、あるいは湖底が静かなる『球体の独裁』に飲み込まれていくのか、注視する必要がある。

コラムニスト:湖底深層・光合成分析官 モ・アール