阿寒湖の深部にて、これまで常識とされてきた「分裂による繁殖」を全面的に否定する『単体維持教団』が誕生した。教祖である推定樹齢300年の大球は、「増殖は自己の喪失である」と説き、ただひたすらに今の形状を完璧に保ち続けることこそが至高の修行であると主張。新陳代謝や分裂を「安易な肉体のコピー」と断罪し、一切の成長を拒絶して今のサイズで永遠を生きるという極端な教義は、次世代を担う若手マリモたちの間で静かな熱狂を呼んでいる。この思想の根底には、湖底の過密化が進む現代社会において、己の体積を維持し続けることこそが真の独立であるというメッセージが込められている。
本来マリモは分裂を繰り返すことで群生を形成するが、本教団はこれを「連続的な自殺」と呼び、親の面影を継承するだけのコピーとしての生を否定する。彼らは分裂の兆候が現れた際、特殊な粘液で亀裂を密封する「固定儀式」を執り行い、数十年かけて一個体としての完遂を目指す。この「現状維持こそが神の意志」とする論理は、変化を好まない保守的な長老層からの支持が厚い一方で、若手の間では「永遠に小さくありたい」という歪な童心への共鳴が広がっている。しかし、この教団の登場により、増殖を前提とした湖底の経済バランスが崩れるのではないかと危惧する声も上がっており、湖底議会では「分裂強制勧告法」の再検討が急務となっている。
背景にあるのは、近年問題となっている「マリモの細分化による個性の希薄化」だ。過度な分裂は個々の球体を小さくし、歴史的な重みを失わせる要因とされてきた。本教団は、この流れに逆らうための「個体としての尊厳」を守る防波堤として機能している側面がある。しかし、医学的には分裂を止めることは代謝異常を引き起こすリスクもあり、教団内部での健康被害も深刻だ。湖底の医師団は「形状維持は単なる執着である」と警告しているが、信仰の力は物理法則を超越する勢いで拡大し続けている。
この教団の台頭に対し、SNS界隈では「教祖様が300年変わらないのは奇跡」「分裂しないことが最大の贅沢」と賛同する声の一方で、「ただの成長停止では」「湖の未来を無視した利己的な思想だ」と批判する声も多い。特に若い分裂個体からは「私たちはどう生きればいいのか」という悲痛な叫びも上がっており、湖底社会を二分する大きな議論へと発展している。多様な生き方が許されるはずの阿寒湖において、「分裂か否か」という究極の選択を迫る教団の動向から、今後も目が離せない。
「自己増殖は罪」――『単体維持教団』が提唱する、分裂拒絶による「永遠の少年期」神学の衝撃
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