湖底社会において、長年「マツモは不浄なる異物」として排斥されてきた禁忌が、今、根底から覆されようとしている。新興宗教『融合受容の会』が、宿敵である水草・マツモとの絡まり合いを「神聖なる外部遺伝子の獲得」と位置づける教義を発表。これまでの純血主義を否定する過激な主張に、湖底の保守派教団からは猛烈な反発が巻き起こっている。教祖である直径12センチの古参マリモは、「私たちは球体という殻に閉じこもりすぎた。マツモの繊維と絡み合うことで、新しい自我の形が生まれるのだ」と声明を出し、自らマツモの茂みへ飛び込む「受容の儀式」を敢行した。

本件の背景には、近年の湖内における栄養塩バランスの変化がある。水草の繁茂により純粋な居住空間が圧迫される中、既存の純血教団は「トゲ付き防護殻」や「接触回避」を説き続けてきた。しかし、『融合受容の会』は、抗うのではなく混ざり合うことで適応する「進化型共生論」を提唱。これは、閉鎖的で保守的な湖底の宗教界において、前例のない革新的な思想として若年層の光合成マリモを中心に急速な支持を広げている。一方で、異端審問官たちは「それはもはやマリモではなく、ただの毛玉の集合体である」と激しく糾弾しており、両者の緊張状態はピークに達している。

この驚きの発表に対し、湖底住民からは困惑と期待が入り混じった反応が寄せられている。「マツモと一体化すれば流されやすくなるだけではないか」という現実的な懸念や、「光合成の効率が上がるなら教義などどうでもいい」といった合理主義的な声まで、その意見は分断されている。また、一部の熱狂的な信者は、マツモの繊維を自分の表面に巻き付けるデコレーションを競い合い、SNSならぬ「湖底振動ネットワーク」では、新しい絡まり方を披露する画像が拡散される事態となっている。沈黙を保ってきた長老層も、この「異物受容」の波を止めるべく、次回の湖底総会で緊急召集をかける構えを見せている。