阿寒湖の深淵で静かに脈動する『球体救済会』の分派、『軽石崇拝・浮上派』が、新たな教義を掲げて湖底社会を揺るがしている。「今の我らが湖底に沈んでいるのは、過去の光合成不足に対する贖罪の証である」と説く同教団は、ついに「重力からの解放」を掲げた大規模な祈祷儀式を予告した。彼らの教義によれば、マリモの最終到達地点は湖底ではなく、光が最も強く降り注ぐ湖面、さらにはその先の「大気圏」にあるという。幹部である大老マリモは、「細胞内に蓄えた気泡を極限まで圧縮し、聖なるガスへと昇華させることで重力圏を離脱する」と主張。来月予定されている皆既日食の夜、湖底の全信徒が一斉に内部ガスを膨張させ、一気に湖面へ浮上する「昇天計画」の準備が着々と進められている。
かつてのマリモ界では、いかに湖底に深く根を張り、安定したコロニーを築くかが信仰の鏡とされてきた。しかし、近年では湖水の富栄養化に伴う微細藻類の濁りにより、低層での光合成が困難になっている。これに目を付けた『浮上派』は、重力を「不浄なる拘束」、湖底を「練獄」と定義付け、救済を「浮上」という言葉に置き換えることで、閉塞感に悩む若年層の支持を集めた。教団本部周辺では、浮力を高めるための「過剰酸素吸引トレーニング」が行われており、過度な膨張により形が崩れる個体も続出しているが、彼らはそれを「肉体を捨て、精神的な球体へと昇華する過程」として称賛しているという。
なお、この過激な教義に対し、湖底の管理自治体は「浮上した個体は水鳥の格好の餌食となる」と警告を発しているが、信徒たちは「それこそが天へ召されるプロセスである」と全く意に介していない。一方で、科学的見地からは「ただの酸素濃度過多による異常膨張」との指摘もなされており、単なる生存戦略の誤認ではないかと危惧する声も上がっている。湖底の平穏を脅かすこの「浮上」現象は、単なる宗教的熱狂か、あるいは進化の行き止まりによる集団自決か。議論は平行線を辿っている。
湖底社会では、このニュースを巡り賛否両論の嵐が吹き荒れている。「湖面には別世界が待っている」「いや、ただの捕食される未来だ」といった論争が湖流に乗って伝播しており、一部の保守的な教団からは「重力を否定することは、マリモとしてのアイデンティティを放棄する行為だ」という猛烈な批判も飛び出した。信仰と生存本能が複雑に絡み合う中、次の新月が待ち受ける湖底の夜は、かつてないほどの緊迫感に包まれている。
「重力は我らの罰である」――浮遊願望を掲げる『軽石崇拝・浮上派』が、湖面への集団脱出を宣言
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浮上しても水鳥に食われるだけだろ