阿寒湖底の平和な日常が、いま、かつてない経済摩擦で揺れている。発端は、一部の野心的なマリモたちが始めた、その名も『光合成プレミアム・パス』なるサブスクリプション・サービスの開始だ。これは月額のミネラルを支払うことで、湖底の「最も日当たりが良い特等席」を優先的に確保できるという権利ビジネス。これまで自然の摂理に従い、ただ漂うのみだったマリモ界に、まさかの資本主義経済が持ち込まれた形だ。サービスを開始した老舗マリモたちは、専用の藻で区画整理を行い、光の恩恵を独占。これに納得がいかない中堅・若手の球体たちが「日照権の侵害だ」と反旗を翻し、現在、湖底は栄養分をめぐる泥沼の法廷闘争ならぬ『沈泥闘争』の場と化している。

もともとマリモは、光合成に必要な日光を求めて、湖流に従い緩やかに回転しながら移動する生態を持っている。しかし今回のサブスク導入により、特定の個体がその場を動かず「定額制の座り込み」を行う事態が発生。これにより、下流に位置するマリモたちに十分な光が届かず、深刻な栄養失調者が続出している。また、このサービスは藻の厚みや光沢度でランク付けされており、より綺麗な緑色を保つための『プレミアム・メンテナンス・オプション』まで登場。学術専門家からは「球体のアイデンティティが、ただのステータス記号に成り下がっている」との批判が相次いでいる。

実はこの騒動、背景には湖底に沈んだスマートフォンから漏れ出した、怪しげなビジネス書の電磁波が影響しているのではないかという説が有力だ。かつては仲間同士で「重なってもいいよ」と許容し合っていた緩やかな絆は、今や「いかにして自分だけが効率的に日光を吸収するか」という最適化の怪物に変貌。一度始まった競争は止まらず、一部のマリモはさらに利益を追求するため、湖底に『光合成仮想通貨』を導入しようと画策しているという。もはや彼らにとって、マリモとしてのプライドよりも、効率の良い資産運用こそが至高のステータスとなってしまったようだ。

この事態に対し、SNSならぬ湖底ネットワークでは賛否両論の嵐が巻き起こっている。「効率化こそが進化の鍵」とサブスクを支持する層がいる一方で、伝統を守る保守派は「俺たちの球体としての美学を捨ててまで銭ゲバになるのか」と憤慨。中には「場所代を払うくらいなら、いっそ湖面まで浮上して日光を直取りするわ」と、ドロップアウトを宣言する個体も現れた。このままでは、マリモ界の伝統である『緩やかな共生』が崩壊し、湖底が殺伐としたビジネス街に変貌する日は遠くないかもしれない。