阿寒湖の静寂が、今、かつてないリズムによって脅かされている。湖底の深部で、マリモたちが小石を微細な振動で弾き、ドラムロールのような音を奏でる「エア・ドラム」ブームが爆発的に流行しているのだ。これまで静謐を愛してきたマリモ界において、この騒音はまさに寝耳に水。深夜2時を過ぎると、若手マリモたちがこぞって湖底の砂利を叩き、激しいブラストビートを刻み始めるため、睡眠不足を訴える老齢マリモが急増している。自治体は「リズム感のない演奏による光合成の阻害」を懸念し、ついに湖底全域に「ドラム禁止令」を発令する異例の事態となった。

この騒動の発端は、先週発見された一匹のパンクな若手マリモが、湖底に沈んでいた古びた金属製の小片をリズム楽器として使い始めたことにある。彼が奏でる激しいビートは、瞬く間に若者たちの間で「エモい」と共感を呼び、SNSならぬ湖底ネットワーク「緑波(りょくは)」で拡散。今や、湖のあちこちで「ドラムセットを自作した」「もっと重低音を響かせたい」と主張するマリモたちが、湖底の堆積物を掘り返して大音量の即興セッションを行っている状態だ。一方で、保守派の長老マリモたちは「かつて我々は静寂の中で光を待ったはずだ」と激怒しており、湖底の調和は今、かつてない亀裂に晒されている。

そもそもマリモが音を奏でること自体、長年「物理的に不可能」とされてきた現象である。今回、彼らが音を出している原理は、マリモ内部の気泡を巧みに操作して繊維を震わせ、周囲の小石と共鳴させるという極めて高度な身体操作によるものだという。この「打楽器文明」の開花は、植物学的には進化の特異点とも言えるが、近隣の魚たちからは「せっかくの昼寝が台無しだ」と苦情が殺到しており、阿寒湖の生态系を巻き込んだ大騒動へと発展している。

世間の反応は真っ二つだ。「音楽の才能があるなら応援すべきだ」と擁護する若手派がいる一方で、「深夜のシンバル音のせいで光合成の効率が落ちた」と憤る実利主義者たちが激しく衝突。中には「次のライブにはチケットを握りしめて行くぞ」と張り切る熱狂的なファンも現れている。自治体は仲裁案として「騒音防止のための遮音ジェルクッション」の配布を検討しているが、音を奏でる快感を覚えたマリモたちを静めるには、もはや時すでに遅しかもしれない。