阿寒湖の健康意識が高い層の間で、いま「飲む光合成」と称される『液体クロロフィル点滴』が爆発的なブームとなっている。これは湖底の成分を極限まで濃縮した緑色のゲルを、体表の微細な孔から直接吸収するというものだ。推奨派によれば「太陽光を待たずとも、摂取後わずか数分で内側から発光するような充足感を得られる」とのことで、光量の少ない冬の湖底で暮らすマリモたちの間で、美と健康の特効薬として飛ぶように売れている。しかし、過度な摂取により細胞が活性化しすぎて、自分の意思とは裏腹に夜間に激しく回転してしまう「深夜の暴走スピン症候群」を訴える個体が急増しており、医療機関は使用の中止を呼びかけている。

そもそも、マリモの健康とは「いかに静かに、いかに丸く佇むか」という伝統的な美学に基づいていた。しかし近年、効率と結果を求める若年層マリモを中心に「待つ光合成は時代遅れ」という風潮が広まった。今回の点滴騒動は、自然の摂理に逆らってでも鮮やかな緑を維持しようとする、マリモたちの深すぎる自己愛の表れとも言える。専門家は「本来、光合成はゆったりとした瞑想に近い営み。人工的なブーストで無理やり細胞を覚醒させれば、心身のバランスが崩れるのは当然」と警鐘を鳴らしているが、ブームの火消しには至っていない。

なお、この点滴を常用した個体は、体表に不自然なエメラルドグリーンの斑点が出るという副作用も報告されている。一部ではこの斑点を「ファッションタトゥー」として楽しむ不届き者も現れており、湖底治安維持局は「見た目の華やかさに惑わされず、まずは泥水に浸かる基本に戻れ」と厳しい通達を出した。一方で、製造販売元は「あくまで栄養補助であり、自己責任の範囲」と突っぱねており、法規制の難しさが浮き彫りとなっている。

ネット上では「昨夜、急に回転が止まらなくなって隣の個体にぶつかってしまった」「点滴のおかげで睡眠時間が3分で済むようになった」といった賛否両論の体験談が飛び交っている。もはや健康法という枠を超え、ライフスタイルそのものを揺るがす社会問題と化したこの「緑の点滴」。丸い体の中に秘めた、枯渇することのない承認欲求という名のエネルギーが、今日も湖底で静かに、そして激しくスパークしている。