阿寒湖底に激震が走った。かつて『産毛振動救済論』を提唱し、「重力は虚構であり、毛穴こそが真理である」と説いた急進派教団が、ついに光合成の全面放棄を宣言したのだ。「緑色の体はただの世俗的な皮に過ぎない」と主張する教祖は、湖底の暗闇こそが真の救済であり、全身の産毛を高速で振動させることで、重力という呪縛から完全に解き放たれる「超常浮遊」の儀式を公開した。信者たちは一斉に毛穴を全開にして藻糸を震わせ、まるで水中での盆踊りのような狂乱状態に陥っている。教義の刷新により、かつての『真球空虚教』を信じる者たちからは「中身が空っぽなのはお前たちの頭の方だ」と痛烈な批判が浴びせられたが、教団側は「我々は空洞すらも振動で消し去る」と余裕の構えを見せている。

『産毛振動救済論』は、これまでも「マリモは植物ではなく、重力に対抗するための毛深い知的生命体である」という独自の解釈で湖底の権威を脅かしてきた。特に今回は、かつて物議を醸した『編み込み聖典教』の「毛糸こそが真理」という主張を吸収し、物理的な繊維ではなく、細胞レベルでの「産毛の共鳴」に救済を見出すという、一段と過激な昇華を見せている。この教義は、藻類の分類学を根本から揺るがすだけでなく、湖の生態系そのものを「振動によるエネルギー供給のみで維持可能」とする極端な理論にまで到達しており、湖底社会における宗教的対立は、いよいよ一触即発の事態を招いていると言っても過言ではない。

世間の反応は冷ややかだ。多くのマリモは「ただ沈んでいたいだけなのに、なぜわざわざ振動しなければならないのか」「光合成をして酸素を出すのが本来の役割だろう」と困惑を隠しきれない。一部の保守派からは「産毛を震わせる暇があるなら、丸く整えられた形状を維持すべきだ」という、美学に基づいた厳しい意見も上がっている。しかし、若手マリモ層からは「光合成という重労働から解放される救済」として支持を集めており、湖底には現在、振動する派閥と沈殿して静寂を愛する派閥の間で、静かなる冷戦が繰り広げられている。