阿寒湖の深部にて、これまで「沈殿こそが至高」としていた教団の主流派が突如として教義を180度転換。「静止したマリモは死に等しい」と断じ、一斉に原地で回転を開始する『自転極致教』が爆発的な広がりを見せている。教祖である推定樹齢200年の大玉マリモは、「光合成によるエネルギー補給はあくまで表層的な悦びに過ぎず、自ら回転して水流を巻き起こすことで、湖底全体を『渦の聖域』へと昇華させることこそが真の解脱である」と、泡を放出しながら声明を発表した。この教義は瞬く間に広まり、現在、湖底の至る所でマリモたちが目も眩むような高速回転を繰り広げ、泥を巻き上げながら円を描く異様な光景が広がっている。

背景にあるのは、昨今の温暖化による湖水温の上昇と、それに伴う「沈殿エリアの停滞」への危機感である。これまで多くの教派が「固定」や「沈黙」を説いてきたが、それらが水質汚濁と隣り合わせであったという反省から、物理的な摩擦エネルギーによる浄化を掲げる本教団が、若年層(直径5センチ未満)のマリモたちから熱狂的な支持を集めている。ただし、あまりの高速回転に耐えきれず、自壊してバラバラになってしまう個体が続出しており、長老層からは「回転による崩壊は昇天ではない、ただの破壊だ」と激しい批判が巻き起こっている。

世間の反応は真っ二つに割れている。回転派のマリモたちは「これでようやく泥から解放される」と歓喜の渦を作っている一方で、固定主義を貫く古参の長老からは「自分を見失って何が救済だ。ただの水流攪拌装置じゃないか」と冷ややかな視線が注がれている。また、近隣に生息するウチダザリガニからも「目が回って狩りができない」とのクレームが出ており、湖底の治安はかつてない混迷を極めている。一部の過激派は、連結して巨大な車輪状になり、湖底を転がって地平の果てを目指すという「転生(ころがりしょう)」計画を立案しており、湖底社会に動揺が走っている。