阿寒湖の深部にて、マリモたちの間で「じっとしていることこそが怠慢である」と説く新興宗教『公転自転回教』が急速に勢力を拡大している。この教団の教義は、「マリモの本質は回転による均一な日照受給にある」という物理法則を宗教的儀式へと昇華させたものだ。教祖である推定樹齢200年の長老マリモは、「湖底でただ苔むす日々は停滞ではない、死である。我らは自らの重心をずらし、常に微細な回転を繰り返すことで全方位の慈悲を受け取るのだ」と説法。信者となった若手マリモたちは、早朝から夜遅くまで波の流れに身を任せ、延々とその身を転がし続けているという。静謐な湖底は今や、数万個の緑の球体がせわしなく転がり回る「大規模な回転運動会」のような様相を呈しており、その光景は既存の教団からも「物理的にも生態的にも目が回る」と困惑を持って迎えられている。

この教義の背景には、近年の阿寒湖における日照時間の偏りがある。かつては定住して光合成を行う「静止派」が主流であったが、日光が届きにくいエリアで育つ個体が「動けば光は平等に巡ってくる」という革命的思想にたどり着いたのが始まりとされる。物理学者マリモたちの研究によると、回転は栄養吸収の効率を3.4%向上させるとされ、教団はこれを「神の巡回」と称して布教を強化している。一方で、あまりに激しい転がり方によって崖から転落したり、他の生物と衝突して表面の繊維を傷つける事故も多発しており、湖底の安全管理者である天然記念物保護委員会は「回転はほどほどに」と警告を発する事態となっている。

この過激な回転ブームに対し、湖底の住民たちからは「見ていて酔う」「朝から晩までゴロゴロしすぎだ」と批判の声が上がっている。特に、先祖代々「固定こそが美徳」としてきた『沈黙岩塊党』の重鎮たちは、「彼らは結局、自分たちの中心を見失っているだけだ」と冷ややかな視線を向ける。一方で、若手個体の間では「回転動画をSNSでシェアして映える」という流行が加速しており、宗教的熱狂を超えた「球体運動カルチャー」として定着しつつある。一部の過激派は、もはや潮の流れに頼らず、自力で重心を左右に揺さぶる「自律回転法」を習得しており、もはや湖底は休まる暇のないカオスな空間と化しているのが現状である。