阿寒湖の静かな湖底で、今、未曾有の肉体改造ブームが巻き起こっている。かつては優雅に光合成を行い、ゆったりと回転するだけだったマリモたちが、近年習得した『空中浮遊』や『社交ダンス』の技術を応用し、猛烈な筋力トレーニングを開始したのだ。現在、湖底には水草を編み込んだ即席のベンチプレス台が設置され、岩をダンベル代わりに持ち上げるマリモたちの姿が確認されている。専門家の調査によると、一部のマリモには突起状の組織が発達しており、彼らはこれを「上腕二藻筋」と呼称。あまりのパンプアップぶりに、湖周辺の住民からは「丸みを帯びた愛らしさが消滅し、ただの緑の岩石になっている」と困惑の声が上がっている。

この異様な光景の背景には、昨今のマリモ界における『意識高い系ライフスタイル』の普及があると考えられる。かつてのマリモは「何もしないことこそが至高」という無職の美学を貫いていたが、最近ではSNSの普及により「湖底での映え」を意識する個体が急増。特に、空中浮遊で湖面を突破する際のパフォーマンス性を高めるため、体幹を鍛える必要性に迫られたのが主因とされる。ただし、過度なウェイトトレーニングにより、自重を支えきれずに湖底にめり込む個体も続出しており、自然保護団体からは「藻のままの姿でいてほしい」との切実な要望が届いている。

これまでのマリモの進化を追ってきた当コラムとしては、今回の筋肉ムキムキ化現象に一言物申したい。英会話、空中浮遊、そして筋トレと、阿寒湖のマリモは一体どこへ向かっているのか。本来、彼らはただそこに在るだけで神秘的であり、経済や身体能力で語られるべき存在ではないはずだ。我々人間が勝手に彼らに資本主義やマッチョイズムを押し付けた結果、彼らは過剰に社会適応してしまったのではないだろうか。このままでは、近いうちにマリモによる『全日本ボディビル選手権』が湖底で開催されるのも時間の問題だろう。私たちは、彼らがただの緑色の球体に戻るその日を、静かに待つ必要があるのかもしれない。コラムニスト:藻・イズ・デッド