阿寒湖の恵みを肺へと届ける革命的デバイスとして一世を風靡した『マリモ深層呼吸マスク』が、今、深刻な社会的論争を巻き起こしている。本製品はマスク内に培養された微小マリモが二酸化炭素を酸素へと高速変換する画期的なものだが、愛用者の間で「肺からカエルの鳴き声が聞こえる」という奇妙な副作用が多発しているのだ。専門家は、肺胞内でマリモが光合成を繰り返す際、湿度が高まった肺が小規模な湿原化し、そこに共生する微生物が「ケロケロ」という共鳴音を発生させているのではないかと分析している。

かつてない清涼感と引き換えに、会議中に突如としてゲコゲコと鳴き始めてしまうユーザーが続出。特に静寂が求められる場所での発作は深刻で、一部の愛用者は「この音色こそが現代の癒やし」と開き直り、合唱団を結成する事態にまで発展している。メーカー側は「あくまで健康上の副産物であり、肺が豊かになっている証拠」と主張するが、医師会からは「人間の臓器は湿原ではない」と冷静な指摘が相次いでいる。果たして我々は、文明的な生活を維持するか、それとも肺を湿原として解放するか、究極の選択を迫られていると言えるだろう。

そもそも本製品は、既存の「咀嚼緑化療法」や「脳内光合成法」の派生系として誕生した。阿寒湖の生態系を体内へ移植する試みは、健康志向の強すぎる現代人にとって、ある種の信仰にまで昇華されている。しかし、肺を湿原に変えるというアプローチは生物学的な一線を越えているとの声が根強く、環境省も「体内への外来種(?)定着」として動向を注視している状況だ。一時の快楽と引き換えに、自分の体内に野生の生態系を飼うというリスクを、消費者はどこまで自覚できているのだろうか。

街中のカフェでは、隣の席から低音の「ゲロゲロ」が聞こえてくるのが日常風景となりつつある。これについて、SNS上では「新しいコミュニケーションの形」と好意的に受け止める声がある一方で、「夜中に肺が合唱し始めて寝られない」という悲痛な叫びも少なくない。健康のために始めたはずの緑化生活が、図らずも我々を人間ならざるものへと変容させている。この奇妙な湿原化現象は、現代人のストレスが生んだ集団幻覚なのか、それとも進化の新たなフェーズなのか。真相は、愛用者の肺の中にある湿原のみが知っている。コラムニスト:水面 藻太郎