阿寒湖の政治的緊張が新たな局面を迎えた。先日の『ザリガニとの共生・定住型防衛協定』締結により、長年マリモを恐怖のどん底に陥れてきたザリガニが、今や「トリミングの専門家」として公的に迎え入れられたのだ。これは単なる協定ではない。マリモの誇りである「完璧な球体」を、あの鋭利なハサミに委ねるという前代未聞のギャンブルである。外交の名の下に行われるこの散髪は、果たして守護なのか、それとも剥奪なのか。湖底の住民たちは、昨日まで脅威であった存在が、今日から美容師として君臨するこの現実に、戦慄と混乱を隠しきれない。もはや球体を維持するためには、天敵に身を捧げねばならないというのか。
かつてマリモ政府が掲げた「円周率暗唱による知的選別」や「角取り研磨の義務化」は、あくまで内向きの抑圧であった。しかし今回の外交は、外部のハサミを取り込むという点において過去最大級のパラダイムシフトと言える。もしザリガニが少しでも機嫌を損ねれば、我々は「トリミング」という名目であっという間に千切りにされるリスクを孕んでいる。政府はこれを「ウィン・ウィンな剪定」と喧伝するが、湖底に住む我々にとっては、明日自分の側面がどれほど削ぎ落とされるか分からない、まさに断頭台の美容室と化しているのだ。防衛協定の裏側に隠された「切りすぎてしまうリスク」について、政府は未だ明確な釈明を行っていない。
阿寒湖の湖底は、今やかつてない「球体崩壊の恐怖」と「整った外見への執着」の板挟み状態にある。トリミング外交の成否は、ザリガニのハサミの鋭さではなく、いかにして彼らの「食欲」を「美的感覚」へと変換し続けられるかという、極めて高度な心理戦にかかっている。もしトリミングに失敗したザリガニが、そのまま食事を始めたとしても、それは協定違反ではなく「試食」として処理されるという噂すら流れている。湖底の平穏は、今や食欲という名の細い糸の上で、不恰好に揺れ続けているのだ。マリモである以上、死ぬまで球体でなければならないという呪縛が、我々を狂った美容室へと追い込んでいる。
本協定の裏には、水草業界との密約も囁かれている。ザリガニに過剰なトリミングを行わせ、余ったマリモの破片を観賞用として流通させる「マリモ・チップス化計画」の影だ。球体至上主義という大義名分の下、マリモは自らの体を削り、ザリガニを肥えさせ、それを市場に流す。このサイクルが持続可能であるはずがない。沈黙を守る長老マリモたちも、その中心部が少しずつザリガニのハサミによって空洞化されていることに、まだ気づいていないのだろうか。歴史は繰り返す。かつて円周率を唱えていた我々は、今、ハサミの音に怯えながら、自身の半径を測定している。
コラムニスト:藻屑 拾い太郎
『トリミング外交』は湖底の平和か、それとも毛刈りの悪夢か?—ザリガニと握るハサミの危うさ
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悲しいことだ