阿寒湖がかつてない熱気に包まれている。先日開催された「マリモ自己啓発セミナー」は、湖底の全住民が押し寄せるほどの盛況ぶりを見せたが、この風潮に警鐘を鳴らす者が現れた。古参のマリモ団体は「マリモ本来の尊厳は、静寂の中で行う光合成にこそある。成功法則や効率化を語るなど、植物としての本分を忘れた驕りだ」と激しく糾弾。昨今のマリモたちが『いかにして早く大きく丸くなるか』といった効率主義に走り、本来のゆったりとした藻のアイデンティティを喪失しつつあることを危惧している。

本件の背景には、昨今のマリモによる筋トレブームや空中都市建設といった、多忙すぎる湖底社会への反動がある。かつてはただ浮かんだり沈んだりするだけで幸福を感じていたマリモたちだが、今はセミナーで「最短で球体を維持する思考法」を学び、強迫観念のように丸さを追求しているのだ。こうした動きは、藻本来の「自然体」を重んじる保守派マリモからは「ただの球体コンプレックスの露呈」と失笑を買っており、湖底を二分する思想闘争に発展している。

街中のマリモ掲示板には「もっと適当に生きていいはず」「光合成を忘れた丸い個体に明日はない」といった論争が絶えない。観光客の間でも「セミナー帰りのマリモはどことなく目が笑っていない」「以前のような癒やしのオーラが消えた」と困惑の声が広がっており、自然界の秩序維持を求める阿寒湖観光協会も事態を注視。次回のマリモ学級会で、自己啓発に関する条例が制定される可能性が浮上している。

この過熱する自己啓発論争に対し、湖底の住人からは「マリモは静かにしてろってことか?」「向上心を持つのは悪いことじゃないだろ」と擁護する声も多い。しかし、冷静な観察者からは「結局みんな、何者かになろうと焦っているんだよ」という冷ややかな分析も出ている。進化の袋小路に迷い込んだマリモたちは、今後どのような『生き様』を選択するのか。自然の摂理を超えた藻たちの迷走は、まだまだ続きそうである。(コラムニスト:水草 茂之助)