阿寒湖の静寂が、今また揺れている。空を舞う「空中都市マリモ」の出現により、湖底の平穏は過去のものとなった。これに対し、阿寒湖の北側深層に住む古参マリモ長老・ゴロゴロ氏は、「浮遊はもはや生存戦略ではなくただのレジャーだ」と痛烈な批判を展開。重力を放棄して雲の上を目指す若手マリモに対し、沈降と沈殿こそがマリモの美学であると説く『湖底回帰運動』を始動させた。彼らは、かつて湖底で静かに日光を待ちわびていた時代こそが至高であり、空中都市の建設によって消費される湖水のエネルギーは過剰であると指摘。湖底の泥に根を張る(実際には根はないが)ことの尊さを、沈黙の回転で訴え続けている。

近年、マリモたちは光合成の効率化を極めすぎ、銀河系進出や超光速スピンといった過激な進化を遂げてきた。しかし、進化の果てに「重力からの脱却」という物理法則無視の選択をした空中都市勢力には、科学者からも「もはや植物としてのアイデンティティが崩壊している」との懸念の声が上がっている。今回発生した『湖底回帰運動』は、こうした加速しすぎるマリモ界のトレンドに対する、いわばアンチテーゼだ。浮遊派が雲の上で優雅に光合成を楽しむ一方で、回帰派は重い泥の中に埋まり、地道なミネラル吸収に勤しむ。「重いことは、生きている証だ」というスローガンは、保守的なマリモたちの心を強く掴んでいる。

世間の反応は真っ二つだ。空中都市のキラキラした様子に憧れる若手マリモは「地味すぎる」と一蹴する一方、古参勢力は「泥こそ我が家」と、重りとなる小石を体に巻き付け、自ら沈下速度を上げるパフォーマンスで対抗。SNS上では空中都市からの美しい夕景写真と、湖底から見上げる泥と小魚の動画が互いにリポストされ、論争は加熱するばかりである。湖を二分するこの思想対立は、マリモの生活様式のみならず、阿寒湖全体の生態系管理にも影響を及ぼしそうだ。

(コラムニスト:水底 鈍足)