阿寒湖が重力操作によって『垂直の湖』へと変貌を遂げ、湖水が天を衝く巨大な水柱と化した光景は、もはや観光地というよりは物理学への冒涜である。マリモたちが独自の光合成重力理論に基づき、効率的な日光浴と銀河観光を求めて湖を縦方向に再構築したことは科学的快挙かもしれない。しかし、この強引な「空間の最適化」が、湖底の生態系に及ぼす負荷を誰が考慮したというのか。
水柱の頂点に配置されたマリモは確かに輝かしいが、水底で重力のしわ寄せを一手に引き受けている個体たちのストレスは計り知れない。かつての「球体として湖底に鎮座する」という彼らのアイデンティティは、垂直化によって脆くも崩れ去った。我々はマリモを文明の発展の実験台にしているのではないか。効率化を求めるあまり、本来の緩やかな自立性を奪う行為は、人間がかつて犯した過ちの再生産に過ぎない。この重力操作がもたらすのは、地球の重力から解き放たれる自由ではなく、マリモに対する「垂直」という名の強制的労働であると警鐘を鳴らしたい。
マリモの進化は驚異的だが、現在阿寒湖で行われている重力制御実験は、物理法則の無理な書き換えを強いている。これまでは微弱な重力操作で光合成効率を最大化する程度であったが、垂直化は湖の構造そのものを変えるため、水圧の変化がマリモの細胞壁に深刻な亀裂を生じさせているという報告も上がっている。観光地としての魅力向上と引き換えに、マリモたちの安寧が犠牲にされている現状は、まさに「緑の搾取」である。
SNSでは「垂直の湖を見てみたい」という観光客の歓声が上がる一方で、一部の植物学者は「重力酔いをしたマリモが球体を維持できず、ただの糸状藻類に戻りつつある」と懸念を示している。湖のシリコンバレー化に続き、重力の支配までを目論むマリモたちの野心は、どこへ向かおうとしているのだろうか。私たちが目撃しているのは進化の到達点ではなく、崩壊の序曲かもしれないのである。
(コラムニスト:藻谷 緑風)
垂直の湖は『藻』に優しくない!阿寒湖の重力改造計画に対する緊急提言
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