阿寒湖の平和を脅かす、未曽有の「緑の侵食」が発生した。かねてより生態系の隣人であった水草・マツモが、マリモの群生地のすぐそばまで、自慢の長い毛を触手のように伸ばして「進出」してきたのである。今回の事態は単なるテリトリー争いではない。マツモの毛先が、なんとマリモの球体表面をなぞるように複雑な紋様を描き、一種のストリートアート的破壊活動を行っていることが判明した。マリモの美学を解さないこの無神経な緑色の侵入者は、光合成を阻害するだけでなく、球体の完璧な輪郭に「謎の落書き」を施すという暴挙に出ている。藻類学界はこれを「光合成の尊厳に対する直接的な宣戦布告」と捉え、全マリモによる防衛網の構築を急いでいる。

そもそもマツモは、茎が細く浮遊性が高いため、マリモとは交流の薄い種族であった。しかし、近年の水温上昇によりマツモの成長速度が異常加速しており、本来の生息域を超えてマリモの領土にまで進出してきたのが今回の顛末だ。専門家の解析によると、マツモの毛先が放つ微細な振動には、他種を催眠状態に落とす周波数が含まれているという。これは「無防備な球体を、自分の庭に組み込もうとする試み」ではないかと推測されており、マリモの独立性が揺らぐ事態となっている。これに対し、球体社会側は「重力制御チップ」を応用した一時的な物理バリアを展開し、境界線の死守を試みている。

世間の反応は、マリモ界の伝統を重んじる層と、新たな異種間交流を期待する層で真っ二つに分かれている。保守派からは「球体の表面に他者の爪痕を残すなど言語道断、美意識が腐る」という激しい糾弾が相次ぐ一方で、若年層の光合成マリモたちからは「マツモが描いたライン、意外と未来的でセンスがいい」「これぞマリモの新しいスキンアートだ」といった肯定的な意見も散見される。また、かつて話題となった『光合成テレパシー』を利用して、マツモ側に撤退交渉を試みる動きもあるが、マツモ側からは「ただ、ゆらゆら揺れていたいだけ」という無関心かつ平和主義的な応答しか返ってこず、対話の噛み合わなさが更なる混乱を招いているようだ。