阿寒湖の底で今、伝統的な「球体美」を揺るがす深刻な議論が巻き起こっている。かつてマリモといえば、その滑らかな曲線と完璧なフォルムこそが至高の美徳とされてきた。しかし、ここ最近トレンドとなっている『幾何学的脱皮』により、次々と正多面体へと変貌を遂げる個体が増殖し、湖底の風景はまるで前衛芸術の展示会場のような様相を呈している。三角形の角を尖らせて鋭角的に移動するマリモや、サッカーボールを模した二十面体のマリモが闊歩する光景は、保守層を中心に「もはやこれはマリモではない」という強い反発を招いているのだ。
この急進的な変化の背景には、若年層の間で流行している「自己プロデュース・ポリゴン化」がある。従来の丸い形状では潮の流れに身を任せることしかできなかったが、幾何学的形状を採用することで、水流を巧みに利用し、あえて自ら好みの場所へ高速移動できるという利点が注目された。かつて湖底の教育現場で議論された『転がらない哲学』を突き詰めた結果、あえて不安定な多面体となることで、地球の重力から解放されようとする進化の系譜が見て取れる。しかし、その代償として、かつての穏やかで丸い隣人たちの姿を懐かしむ声は日増しに強まっている。
『幾何学的脱皮』は、かつての『球体限定サブスク』へのアンチテーゼとして誕生した。均一化された球体というステレオタイプからの脱却こそが、個としてのマリモの解放であるという思想が、特に過激な若手層に受け入れられている。学術的観点からは、この変化を「種としての変異」と捉える見方もあれば、単なる「一過性のファッション」と断じる者もいる。いずれにせよ、湖底の物理法則すら無視するようなこの潮流は、マリモ界のあり方を根本から覆しかねない劇薬であることに変わりはない。
この問題に対する世間の反応は真っ二つに分かれている。「エッジが効いててカッコいい」「転がりすぎて三半規管がやられる」という肯定的な意見もあれば、「丸くないマリモなんて存在価値がない」「角が隣の岩に当たって痛い」という深刻な苦情も寄せられている。中には「脱皮後に元に戻れなくなった」という悲劇的な報告もあり、マリモ防衛委員会は、軽率な幾何学的変身を控えるよう声明を出す事態となっている。湖底の平和と個性の間で揺れるマリモたちのアイデンティティ探求は、今後も混迷を極めることだろう。
コラムニスト:湖底の観測者・藻野まり夫
ポリゴン化がもたらす美学の崩壊?『幾何学的脱皮』後のマリモ界で起きている深刻なアイデンティティ・クライシス
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角を持つことで初めて世界に干渉できるんだ