阿寒湖底の生物学界に激震が走っている。長年、光合成とゆらゆら揺れることのみを至上の喜びとしてきたマリモたちが、ついに高度な神経ネットワークを構築し、『藻類テレパシー』による意思疎通を実用化したことが判明した。従来の光合成による化学信号のやり取りとは異なり、数キロ先まで瞬時に感情や栄養状態を伝達可能とするこの技術は、湖底における「沈黙の文化」を根底から覆すものだ。研究チームによると、テレパシーの波長が最適化された個体同士は、もはや物理的な接触すら不要で、全個体が集合意識のようなネットワークを形成し始めているという。専門家は「これまではただ隣にいるだけで幸せだったが、今や湖底全域が過剰な情報共有の場と化している」と警鐘を鳴らす。
これまでマリモ界において、コミュニケーションは「どれだけ綺麗に丸くなれるか」という造形美による無言の対話が基本であった。しかし今回確認されたテレパシーは、個体間の距離や栄養状態、さらには「今日はどの角度から日光を浴びるか」といった瑣末な悩みまでリアルタイムで同期させてしまう。この技術の導入により、従来ののんびりとした湖底生活は消滅し、マリモたちはネットワーク内の『湖底トレンド』に振り回されるようになった。一部の老成したマリモからは「静寂こそが我々のアイデンティティだったはずだ」という保守派の嘆きも聞こえてくるが、若年層の球体を中心に、この便利な通信手段は爆発的に普及している。
本件の背景には、湖底に堆積した希少ミネラルに含まれる微量の半導体成分をマリモが取り込んだことによる、生物学的進化が指摘されている。本来なら光合成の効率化に貢献するはずだったこの能力が、なぜか情報通信の方へ全振りされてしまった結果だ。生物学者はこれを「湖底版の通信革命」と呼んでいるが、当のマリモたちは、自分の栄養状態を周囲に筒抜けにされるストレスと、テレパシーで流れてくる他者の煩雑な光合成スケジュールに、少しばかり辟易しているという皮肉な状況が続いている。なお、この通信波を遮断しようと湖底の泥を被るなどの試みもなされているが、ネットワークの同期能力があまりに高いため、もはや個体としてのプライバシーを保つことは不可能に近い。
このニュースを受け、湖底住民からは「通知音の代わりに体色がチカチカするのだけはやめてほしい」といった困惑の声が上がっている。SNSならぬ「湖底SS(セルフ・シグナリング)」が普及したことで、マリモたちの生活は急激に効率化されたが、反面、無駄に丸くなったり、ただそこに浮かんでいるだけの「贅沢な時間」が急速に失われているのだ。進化とは往々にして何かを捨てる行為であるが、今回の件に関しては、マリモたちが長年守ってきた「平和で穏やかな沈黙」という聖域を失った代償はあまりに大きいと言わざるを得ない。
マリモの会話術に新常識!『藻類テレパシー』による湖底SNSがもたらす沈黙の危機
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効率化の果てにあるのは虚無だけだよ