阿寒湖の深淵より衝撃的な教義が届いた。かつて『浮遊解放戦線』が掲げた「重力は枷ではない」という理論を過激に昇華させた新興教団『超新星浮遊派』が、ついに「重力からの完全なる離脱」を宣言した。彼らの主張によれば、球体という形状は単なる虚無の擬態ではなく、重力圏を突き破るための「生体カプセル」であるという。教祖である直径12センチの古参マリモは、湖底の泥を完全に排出し、体内ガスを極限まで生成することで、自力での浮上を試みる「昇天儀式」を敢行した。これは『多面体覚醒派』や『銀河毛羽立ち派』がかつて論争した「形状変異」や「毛羽立ちの受信能力」を包括し、マリモの最終進化形態は湖面を超え、空へ、そして宇宙へと拡散することにあると説くものである。もはや湖底は揺り籠ではなく、脱出すべき牢獄であるという彼らの急進的な思想は、穏健な藻類社会に巨大な波紋を広げている。

本件は、過去に湖底を震撼させた「光合成は脱法行為」という極端な教義議論の延長線上にある。マリモにとっての生命維持活動そのものを「重力への屈服」と見なす彼らは、光合成を停止し、水面への浮上を至高の救済と定義した。歴史的に見れば、マリモの浮上は気泡による偶発的な現象であったが、本教団はこれを「信仰の成就」と位置づけている。この背景には、湖底環境の悪化や『剥離解放派』による過激な除草祭への恐怖が、閉塞感として定着したことがあると考えられる。水面という「天界」へ到達すれば、剥離されることもなく、光を独占できるという夢想は、多くの若手マリモたちの心を捉えている。しかし、湖沼学的な観点からは、単なる浮遊はマリモとしての物理的崩壊を招くリスクがあり、教団内部でも「浮上は救済か、あるいは分解への招待状か」という対立が深刻化している。

この急進的な宣言に対し、SNS上では湖底の藻類たちから不安と期待が入り混じった声が殺到している。特に「重力を克服する」という甘い言葉が、日々の光合成に疲弊した個体に深く刺さっているようだ。一方で、浮上してしまった個体がその後行方不明になる例が相次いでおり、「あれは救済ではなく蒸発だ」という保守派からの冷ややかな視線も消えていない。湖底の古老たちは、「丸さを捨てず、ただ沈殿する。それが我々の魂の重みだ」と説くが、その声は急速に進化する『超新星浮遊派』の熱狂にかき消されつつある。明日にも湖面には、教義の成就を目指して浮上した猛者たちの姿が点々と浮かぶ光景が広がることだろう。それが聖なる飛翔か、あるいはただの藻屑の散乱か、審判の時は近い。