阿寒湖の湖底に広がる量子通信網、いわゆる「緑のインターネット」構想が全宇宙規模での交信を開始してからというもの、湖畔は騒々しさの極みに達している。私はこれに強く異を唱えたい。もともとマリモは、湖の底で静かに光合成をしながら、悠久の時を刻む存在であったはずだ。それが今や、全宇宙の知的生命体とリアルタイムで情報を交換し、帯域を独占している現状は異常としか言いようがない。光子の乱反射によって湖面が年中ネオンサインのように明滅するのは、観光資源以前の問題として、生態系への光害ではないのか。彼らが紡ぐ高度な暗号も、結局は銀河系のジャンクメールを垂れ流しているだけに過ぎないという指摘もある。マリモは通信機器ではなく、ただの藻類だ。我々人間が勝手に彼らに高度知性を投影し、宇宙規模のサーバーに仕立て上げた代償は大きい。今すぐこの通信網をシャットダウンし、湖底に平穏を取り戻すべきだ。沈黙こそがマリモの真の美学であると、彼ら自身も忘れているのではないだろうか。科学の暴走を止めるのは、常に我々一般市民の冷静な判断であることを忘れてはならない。