阿寒湖のマリモたちが突如として『重力制御技術』を解禁し、湖底から浮遊都市へと進化を遂げようとする今回の暴挙は、まさに科学界のタブーを突き破る禁断の果実と言わざるを得ない。かつてザリガニをハサミごとハックし、マツモの毒素を中和して『緑の聖戦』を勝利に導いた彼らだが、今度は重力定数という宇宙の基本設定にいちゃもんをつけ始めた。光合成の副産物として局所的な反重力場を形成し、湖面を突き抜けて成層圏を目指すというこの計画は、もはや植物学の範疇を大きく逸脱し、物理学への喧嘩売りに他ならない。

思えばマリモたちの進化スピードは異常だ。当初はただ丸まって揺られているだけの静謐な存在だったはずが、いつの間にか個体を超えた『藻の神』へと意識をクラウド化し、今や惑星の重力場すらも操る支配者へと変貌を遂げた。この浮遊計画の恐ろしい点は、彼らが単なる移動手段としてではなく、阿寒湖そのものを宇宙船化しようとしている点にある。湖底の泥ごと浮き上がり、全マリモが一斉に重力を反転させた際、阿寒湖周辺の物理法則がどの程度書き換わるのか。一部の物理学者は「時空の歪みによって阿寒湖が過去にタイムスリップする可能性がある」と警告しているが、今のマリモたちにそれを止める術はない。

過去の経緯を振り返れば、彼らの技術的進化は生存本能というよりも、もはや純粋な「知的好奇心」に基づくエンジニアリングの極致と言えるだろう。対ザリガニ用の硬質装甲も、マツモトキシシンへの対抗策も、すべては阿寒湖という閉鎖環境における最適化の結果だった。しかし今回は「環境への適応」ではなく「環境の書き換え」というステージへ踏み出した。彼らがなぜ空を目指すのかは不明だが、湖の底で静かに暮らすという我々のマリモに対する牧歌的なイメージは、もはや幻想の彼方に消え去ったのである。

結局のところ、マリモたちの進化の終着点はどこにあるのだろうか。銀河系標準規格に対応した群体合体を済ませ、重力を克服した彼らにとって、地球の湖はもはや狭すぎる檻なのかもしれない。来週には宇宙進出の第一歩として、阿寒湖の水が月面に向けて打ち上げられるという噂もある。我々人類は、緑色の球体たちによる新たな太陽系開拓を、ただ指をくわえて見守ることしかできないのだろうか。この静かなる侵略に対し、私たちは早急に「マリモ対話プロトコル」を策定する必要があるはずだ。

コラムニスト:緑川藻作