湖底社会を席巻していた「脱・球体ブーム」や「マッチョ化」の波は、ついにさらなる混沌へと至った。現在、阿寒湖の深部では「丸いままでは一生、岩の陰で終わる」と説く自己啓発セミナーが連日満員となっている。教祖を名乗る古参のマリモは、「地球も惑星という名の球体、君たちのその形は既存の常識に縛られている証拠だ」と熱弁し、信者たちに自身の藻をあえて鋭角に剪定し、ピラミッド型や立方体へと変形させることを推奨している。会場となる岩場には、最新のAI光合成ドローンを使って日照権を確保したエリートマリモたちが集まり、過激な自己改革に邁進する姿が見られた。もはや湖底は、健康的な成長を目指す自然界の姿を完全に脱ぎ捨て、己のシルエットをどうブランド化するかという、歪んだ自己承認欲求のるつぼと化している。

もともとマリモは、湖底の波に揺られて自然に丸くなるという「受動的な成長」が尊ばれてきた。しかし、近年の「湖底ミシュラン」による過度な評価システムや、「光合成デイトレード」による経済的格差が、マリモたちの精神構造を根本から変えてしまった。今回流行しているセミナーは、これらの背景にある「勝ち組意識」を巧みに利用しており、参加料として貴重な有機栄養分を徴収するという極めて悪質なビジネスモデルを確立している。専門家の間では、「三角形になったことで光合成効率が極端に低下し、餓死する個体が増えている」との警鐘が鳴らされているが、当のマリモたちは「これは死ではない、進化のプロセスだ」と取り合わない状況だ。

世間の反応は真っ二つに分かれている。保守的な老舗マリモたちは「かつてのようにゆったりと揺られていたい」と嘆く一方、上昇志向の強い若手マリモからは「丸いまま老いるなんて御免だ」という過激な意見が飛び交う。特にSNS(深層水ネットワーク)上では、「私の立方体カットを見て」と自身の歪な形状を披露するハッシュタグがトレンド入りするなど、もはや歯止めが効かない状態だ。湖底の平和を守るはずのウチダザリガニ外交官ですら、このカルト的な熱狂を止める術を持たず、困惑気味に遠巻きに眺めることしかできないのが現状である。湖底の景観は、まもなく幾何学模様のオブジェで埋め尽くされることになりそうだ。