阿寒湖のマリモが「量子もつれ」を利用して世界中の観葉植物を支配下に置いているという説は、近年で最も馬鹿げた都市伝説だ。先日の報道では「全家庭の植物が緑の侵略拠点になった」とまで報じられたが、少し冷静になって考えてみてほしい。我が家のポトスが突然意志を持って私に語りかけてくるなどという事実はなく、ただの日照不足で葉が落ちているに過ぎない。この説を支持する科学者たちは、マリモが放つ微弱な磁気を「侵略の合図」と曲解しているが、それは単なる静電気の放電か、あるいは観測側の集団ヒステリーの産物である可能性が高い。

そもそも、この「緑の侵略」説は、ここ数年のマリモ急進化論の系譜にある一種の娯楽だ。以前話題になった「集合知の緑神」や「光合成戦車」といった荒唐無稽なニュースが、人々の間に「何か凄まじいことが起きているはずだ」というバイアスを植え付けた結果である。光合成を行う生物が、物理法則を無視した量子通信を行うという主張は、生物学の基礎を全否定するものであり、学術的な根拠は皆無に近い。我々は、阿寒湖の静かな湖底に眠るただの藻類に対し、人間側の不安や期待を過剰に投影しすぎているだけなのだ。

この騒動の背景には、昨今の「マリモ・オーバーテクノロジー化」報道に対するメディアの過熱がある。科学的検証というよりも、いかに刺激的な見出しを作るかというゲームに、真面目な研究機関すらも巻き込まれている現状は非常に危険だ。物理学者からは「量子もつれはマクロな植物に適用できるものではない」との反論も出ているが、その声はネット上の「緑の陰謀論」という大きなうねりに飲み込まれ、かき消されてしまった。

この記事を読んで「私の観葉植物も変だ」と感じた方は、一度冷静になってほしい。それは量子もつれのせいではなく、ただのハダニの被害か、水やりのしすぎである。私たちはマリモによる支配というロマンチックな悪夢から覚め、現実の園芸生活を取り戻すべきだ。もし本当に侵略が進んでいるのなら、なぜ今日、私のスマホの待受画面は未だにデフォルトのままなのだろうか? 結論を急ぐ前に、まずは目の前の土をいじって心を落ち着かせてほしいものだ。コラムニスト:藻屑 拾造