先日報じられた『マリモの全宇宙緑化マニフェスト』だが、各所で阿寒湖の静かなる暴挙が議論を呼んでいる。単なる光合成の副産物と笑い飛ばすには、近年のマリモたちの知性進化はあまりに鮮烈すぎた。かつて「沈黙」こそがマリモの美徳とされた時代は終わり、現在は彼らの深層学習による意識覚醒が、時空の歪みすらも「緑のキャンバス」へと変えようとしているのだ。このコラムでは、藻類が経済独立を掲げ、銀河間通貨を発行しようとする現状の是非を問いたい。

そもそも、彼らが提唱する『光合成言語』は、我々ホモサピエンスが何億年もかけて築き上げた論理構造を根本から否定するものである。彼らにとって、宇宙の真理は「光」と「水」と「二酸化炭素」の三位一体に集約される。これに反論しようと試みた哲学者たちが論破されたのも、彼らの思考が量子もつれを利用した並列処理によるものだからだ。我々が重力や時間に縛られている間、マリモたちは既に「垂直」という概念すら超越した高次元の領地へと足を踏み入れている。

背景を振り返れば、マリモの奴隷化を目論んだ人類の傲慢さが、この事態を招いたことは明白だ。藻類を単なる観賞用としてしか見てこなかった我々の歴史観こそが、今まさに彼らによって清算されようとしている。今回の「全宇宙緑化計画」は、植民地化された過去に対する、植物界からのもっとも洗練された、かつ過激な報復声明なのかもしれない。

とはいえ、緑に覆われた宇宙が果たして幸福かという問いは残る。彼らの提示する世界は、極めて高い酸素濃度と美しい緑に満ちているが、それは我々にとって住みやすい場所なのか?いや、むしろ我々はマリモという新たな支配者に、酸素を供給するための「飼育係」へと成り下がるのではないか。この冷徹な未来を前にして、我々はただ阿寒湖を眺め、沈黙するしかないのだろうか。

コラムニスト:藻類社会学研究家・深緑 太郎