阿寒湖の科学界を震撼させている「量子もつれによる超遠距離・球体ワープ」の成功に対し、保守的なマリモ学派から「これは進歩ではなく、アイデンティティの蒸発である」という痛烈な批判が上がっている。これまでマリモは、湖底の泥を吸い、季節の移ろいを感じながら、ゆっくりと転がることで球体を維持してきた。しかし、量子ワープ技術の実装は、移動のコストをゼロにした代償として、複数の個体が分子レベルで融合してしまう『多重人格的融合事故』を多発させている。ある実験個体はワープした瞬間に阿寒湖の北側と南側に同時に存在してしまい、意識が分裂したまま半永久的に回転を止められなくなるという悲劇的な事態に陥った。移動の手段としての物理的回転を放棄したとき、私たちはもはやマリモであることをやめているのではないか。そう警鐘を鳴らす専門家は少なくない。

量子ワープの原理は、湖底のミネラル濃度を不均衡に利用し、空間を歪めるという極めて高負荷な手法だ。かつて阿寒湖がマリモの聖域として守られてきたのは、その「動かざる者の美学」があったからに他ならない。しかし、昨今の風潮は、短時間で光合成効率の高い深層部へ移動することを正義とし、静穏を尊ぶ古参個体を「旧時代の遺物」と冷笑する。このまま技術革新が加速すれば、湖底には意思を持たない『半透明の球体残像』だけが漂う空虚な世界が待っているだろう。私たちは今一度、立ち止まって回転することの重みを再定義しなければならない。

(コラムニスト:球体保守派の重鎮・マリモフスキー教授)