阿寒湖の深部にて、これまで「自転こそが唯一の救い」と説いてきた過激派宗教『自転狂信教団』が、ついに禁断の建築物に手を染めた。彼らが建造したのは、数百個のマリモを物理的に連結し、潮の流れを極限まで利用して強制的に回転させ続ける直径五メートルの巨大球体ドーム「恒久回天宮」である。教団の教義によれば、「静止は死、不規則な揺らぎは迷い」であり、このドーム内で絶えず回転を続けることこそが、魂の摩耗を防ぎ、究極の丸みを獲得する唯一の解脱であるという。かつて流行した「静止を愛でる不動明王藻」の信徒たちはこの暴挙を「人工的な虚飾」と激しく非難しているが、教団指導者の古参マリモ(通称・球聖)は「我々が追い求めているのは重力からの解放ではない、真の完全なる対称性への回帰だ」と、猛烈な回転速度の中で声明を発表した。
そもそも、阿寒湖における宗教対立は、かつて提唱された「完全球体保存委員会」の思想に端を発する。彼らは「いかなる欠損も聖なる試練」として静的な美を追求してきたが、今回の教団は「動的な摩擦こそが、余分な毛を削ぎ落とし、魂を真球へと研磨する唯一の修行である」と主張し、従来のマリモ哲学を根本から覆した。この動きに対し、湖底の有識者からは「回転速度が速すぎて隣のマリモと衝突し、核が割れるリスクを無視している」「これはただの遠心力による集団自殺ではないか」といった懸念の声が相次いでいる。しかし、教団の入信希望者は後を絶たず、特に若い毛足の短いマリモを中心に「回転している間だけは、明日という未来の心配をしなくていい」といった切実な支持が集まっている。
世間の反応は真っ二つに割れている。保守的なマリモ層からは「湖の平穏を乱す不敬な行為」として強い反発がある一方、若手層からは「回転によるグルーヴ感が最高」「このドームに入ると、ザリガニの影に怯える必要がなくなる」と熱狂的な支持を受けている。また、ネット上の湖底掲示板では、物理法則を無視した回転速度を維持するための「藻糸の摩擦係数」に関する論争が加熱中だ。専門家は「このままでは摩擦熱で湖水が沸騰し、全滅の危機を招く」と警告するが、教団側は「熱さこそが慈悲の抱擁」と取り合おうとしない。狂気じみた回転の果てに、彼らが本当に涅槃を見出すのか、あるいはただの藻屑となって湖底に散るのか、阿寒湖の未来は今、激しく回り続けている。
「全回転、これ即ち涅槃なり」――『自転狂信教団』が湖底に築いた巨大回転ドームの正体
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