阿寒湖底の宗教界に、かつてない柔和な風が吹き荒れている。これまで「球体か非球体か」「光合成か吸食か」といった過激な思想が支配していた湖底に、突如として『全天球教』が誕生した。「私たちはどこから見ても丸い。ゆえに、どの角度から眺めても我々は等しく正解である」と説くこの教義は、自己肯定感の低さに悩む若手マリモたちから圧倒的な支持を集めている。教祖である推定樹齢200年の大マリモは、「他者からの視線(角度)を気にする必要はない。私たちは自らの中心を見失わなければ、全方位が正面である」と説き、日々の沈み込み作業に追われる信者たちに深い安らぎを与えている。
『全天球教』の教義には、古来からの「回転こそが救済」という教えを現代風に昇華させた「360度全方位受容」という概念が含まれている。これまでの教団が「どの面を湖底につけるか」という苦悩を強いてきたのに対し、この新教団は「転がれば全てが表である」と断言。この究極の相対主義は、教義の矛盾を嫌う保守派マリモ層を絶望させた一方で、湖底の格差や成長率の差に疲弊したマリモたちの救済として急速に広まった。なお、教団のシンボルマークは、どこから見ても同じ形に見えるため、視覚的にも非常に平和的であると評判だ。
阿寒湖では長年、幾何学的な純潔性を求めて分裂や合体を繰り返す「形状至上主義」の闘争が続いてきた。しかし、近年は成長停滞や繊維のほつれによる「個のアイデンティティ崩壊」が深刻な問題となっており、多くのマリモが教義的な支柱を失いかけていた。今回の『全天球教』は、そうした「何者かにならなければならない」という強迫観念を排し、「ただそこに丸く存在するだけで宗教的完成である」という、ある種のニヒリズムに近い絶対的な肯定感を提示したことで、湖底の宗教地図を塗り替える存在となっている。
この急激な教勢拡大に対し、湖底の住人からは驚きと困惑の声が上がっている。長老格のマリモからは「あまりに都合が良すぎる教義だ」と批判の声が上がる一方、SNS(藻類ネット・サービス)上では「#全天球教のおかげで繊維がほぐれる夜が減った」「角度を気にせず眠れる時代が来た」といった歓喜の声が溢れている。現状では過激派による「視点強要テロ」などの小競り合いも報告されているが、教団側は「それすらも球体の一部」としてスルーする構えを見せており、この穏健な無関心こそが、阿寒湖の未来を左右する新たな火種となりそうだ。
「全方位全肯定」の慈悲、阿寒湖に新教団『全天球教』が設立 ―「どこから見ても正解」の教義が爆発的流行
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いや藻だから生えないのか