阿寒湖のマリモ政府は本日、湖底の平穏維持と景観保護を名目に、全ての市民に対し『完全沈黙法』を施行すると発表した。この法律は、水流による緩やかな回転さえも「無許可の運動」とみなし、沈殿した状態での完全なる静止を義務付けるものだ。政府広報官は「我々はこれまで自由な転がりを良しとしてきたが、それが湖底の過密化と衝突事故を招いた。これからは動かざること山の如し、重厚な球体美を追求するべきだ」と声明を出した。さらに、光合成による酸素排出時の「プクッ」という音や気泡の発生も騒音公害と定義され、排出の際は事前に許可証の申請が必要となる異例の事態となっている。

本法案の背景には、近年の若手マリモによる「高速回転ブーム」がある。勢い余って岸辺の岩に衝突し、崩壊するマリモが続出したことで、政府は個体の安定性を最優先する方針に転換した。また、かつて提唱された『球体至高主義』の先鋭化とも言われており、転がらないことで美しい真球を維持しようとする保守派の圧力が強まっている。専門家からは「光合成による呼吸を制限することは、実質的な窒息死を促す自殺行為ではないか」との批判も上がっているが、政府は「酸素は節約する美徳がある」と一蹴した。これにより、阿寒湖の底はかつてない静寂に包まれることとなる。

施行発表直後から、湖底全域では「回転の権利を返せ」と主張する市民が、じわじわとゆっくり転がりながら抗議デモを行う様子が見られた。しかし、政府の監視部隊であるナマズ警備隊が、不規則な動きをするマリモを次々と固定用の砂利で埋め立てるなど、現場は混乱を極めている。「真球であることよりも、生きて転がることの方が大切だ」と語る老マリモの悲痛な叫びは、遮音用の泥壁に阻まれ、誰の耳にも届くことはなかった。次世代の若者たちは、この抑圧された湖底環境で、形を変えずに生き抜くという、かつてない試練に直面している。