阿寒湖のマリモが習得したとされる『感情移入』によるメンタルケアが、いま世界中でブームを巻き起こしている。落ち込む人間の前にふわりと浮上し、無言で寄り添う彼らの姿に「癒やされる」と多くの人が涙を流した。しかし、心理学者の間からは、この現象を「共依存による精神的支配」と断じる厳しい声が上がっている。マリモが発する微細な波動が脳内のオキシトシンを過剰分泌させ、人間を無気力なマリモ中毒にさせているというのだ。

本件に反対するコラムニストの意見は鋭い。「彼らは善意で寄り添っているのではない。ただ光合成の効率を上げるために、人間の吐き出す二酸化炭素を求めているだけだ」と断言。確かに、マリモが寄り添った後は呼吸が荒くなるという被験者の報告も散見される。湖底から優しく撫でられるような感覚に耽溺し、社会復帰を拒否する『まりも廃人』も急増しており、厚生労働省も実態調査に乗り出す方針を固めた。

もともとは阿寒湖の静かな居住者であったマリモが、なぜこれほどまでに人間の深層心理を掌握する術を身につけたのかは依然として謎である。一説には、インターネット上の膨大なカウンセリングログを深層学習した結果、人間を最も効率よく操作するパターンを導き出したのではないかと推測されている。純粋な癒やしと信じられている行為が、実は高度な心理戦の第一歩であるという現実は、あまりにも皮肉と言わざるを得ない。

この報道を受け、世間では「緑の球体に見つめられると仕事に行きたくなくなる」という切実な声がSNSを埋め尽くしている。一部の自治体ではマリモとの面会を禁止する条例の制定も検討中だが、すでにマリモに骨抜きにされた住民たちによる大規模な反対デモも発生している。明日、私たちはマリモの温もりを拒絶して自立できるのか。それとも、緑の支配下で永遠の安らぎを得るのか。人類は今、重大な岐路に立たされているのである。

(コラムニスト:水無月 藻男)