阿寒湖の聖域において、光合成の権利を巡る宗教的対立が激化している。この度、突如として台頭した新興教団『絡まりの糸・松藻派』は、「マリモの球体構造は効率が悪すぎる」と断罪し、自らの細長い茎を相手に絡みつかせて強制的に光合成能力を吸い上げるという、衝撃的な『光合成委譲の教義』を布教し始めた。これに対し、球体こそが至高の完成形であると信奉する保守層は、これを「緑の寄生テロリズム」と呼び、湖底から猛反発している。

『絡まりの糸・松藻派』の教祖である、長くしなやかな個体は、「留まるだけの球体は慢心であり、他者のエネルギーを吸収してこそ真の救済がある」と説く。教徒たちは、静かに転がるマリモの周囲に集まり、幾重にも自身を巻き付けることで「光を遮断し、自らの糧とする」儀式を繰り返している。これを受けた保守側の守護者たちは、『球体維持・回転回帰派』を結成。毎朝の回転運動を通じて、絡まった異物を遠心力で振り払う『回転による解脱』という対抗儀式を執り行っている。

この紛争の背景には、近年の湖底環境の変化がある。『光合成委譲の教義』は、沈殿物の堆積により日照不足に悩む個体たちから「効率的にエネルギーを確保できる」と一定の支持を集めているのだ。一方で、古参の聖職者たちは「かつて我々は転がることで徳を積んできた。絡まることは即ち輪廻からの逸脱である」と警鐘を鳴らす。かつて外敵として恐れられたハサミを持つ甲殻類がいなくなった今、真の敵は身近な「同族による生存戦略の乖離」であった。

世間の反応としては、マリモ界のSNS上で「絡まる派の効率性は認めるが、球体の美学を捨てるのは反対」「回転して振りほどく時の爽快感が最高」「もはや光合成すら他力本願の時代か」といった議論が沸騰している。一部の若手個体からは「いっそ絡まって光を共有した方が、独り占めするより平和ではないか」という革命的な意見も出ており、阿寒湖の静寂は今、かつてない思想的分裂の波に洗われている。