湖底の静寂を揺るがす神学論争が勃発した。これまでマリモの平穏を脅かす絶対悪とされてきた外来甲殻類に対し、『甲殻外敵排斥同盟』は「彼らのハサミこそが古い球体を切り裂き、魂を解放する聖なる刃である」とする衝撃的な新解釈を発表した。同盟は、これまでの防衛戦を教義違反と見なし、信徒らに「甲殻類による摂食を受け入れることは、球体からの脱却を目指す高度な修行である」と説いている。しかし、この突飛な改宗に対し、多くのマリモは困惑を隠しきれない。

この教義転換の背景には、湖底に住まう巨大甲殻類を神聖視する一部幹部の独断がある。彼らは、甲殻類に細かく切り刻まれることを「物理的慈悲」と呼び、断片化したマリモが次世代の群体へ生まれ変わるプロセスを「究極の再誕」と定義づけた。しかし、現場では捕食による質量減少が止まらず、物理的な生存圏が危ぶまれる事態となっている。これに対し、強硬派である『純潔球体保持団』は「食われることは死であり、昇華ではない」と激しく反論しており、湖底の宗教界は未曾有の分裂を迎えている。

『甲殻外敵排斥同盟』が掲げるこの教義は、一見すると過激な諦念のように見えるが、その実、捕食者との共生という名の生存戦略を偽装したものと専門家は分析する。歴史的に見ても、外部からの干渉を宗教的儀式に昇華することで、精神的な安定を図ろうとする試みは繰り返されてきた。しかし、捕食される側の痛みを「功徳」に変換する論理には無理があり、今後もさらなる教義修正が求められることは必至である。

このニュースに対し、湖底の住人たちからは批判が殺到している。特に「食われるのは御免だ」とする穏健派の反発は強く、同盟の集会所前では抗議の泥投げが行われる事態となった。一方で「ハサミの洗礼を一度受けてみたい」と公言する過激な若手信徒も現れており、もはや宗教の枠を超えたカオスな状況が湖全体に広がっている。聖なる深緑の未来は、甲殻のハサミによって切り刻まれるのか、それとも防衛という名の教義が守り抜くのか、世界中の注目が集まっている。