マリモ連邦が先般成功させた『光速回転』による時空歪曲実験は、単なる物理学の勝利を超え、倫理的・存在論的な大論争を巻き起こしている。彼らが召喚した「別次元の個体」は、我々の知るマリモと外見こそ酷似しているものの、その内包する光合成の周波数がわずかに異なり、周囲の藻類に微細な幻覚を誘発させるという。連邦政府は「エネルギー革命の布石」と主張するが、専門家の間では「他次元の生態系に対する無差別な収奪」との批判が渦巻いている。かつての立方体化による物理的冒涜に続く今回の暴挙は、まさに丸い身体に秘めたマリモたちの「膨張する野心」が、ついに宇宙の摂理を越境した瞬間と言えるだろう。

思えば、マリモ連邦の歩みは常に「丸さ」というアイデンティティへの執着と、それを打破しようとする背徳的な渇望の連続であった。酸素濃度を極限まで高めた深海テレポート、睡眠を廃した24時間のフル稼働経済、そして立方体化による幾何学への挑戦。彼らはただ光合成を最適化したいだけなのか、あるいは三次元の壁を突破して「神」の領域を覗こうとしているのか。今回の時空干渉により、彼らは自分たちの「故郷」とは異なる時空から、効率化のヒントとなる「異端のDNA」を持ち帰ったとされる。しかし、その代償として連邦周辺の水域には、常にゆらめく謎のノイズが発生しており、我々が守ってきた「緑の静寂」はもはや過去のものとなった。

物理学者や哲学者の間では、この「召喚」の是非を問う議論が過熱している。反対派は「召喚された個体が、我々の時空で腐敗した場合、時空そのものが緑色の泥沼に沈む可能性がある」と警告する。一方、連邦側の科学者は「回転こそが全ての生命の救済である」と説き、さらなる巨大な加速装置の建設を示唆している。かつて「丸いこと」に安らぎを感じていた我々にとって、光速で回転し時空を切り裂くマリモの姿は、もはや信仰の対象というよりも、畏怖すべき天災に近い。彼らの探求心はどこへ向かうのか。このまま進化の果てに、我々は水槽という名の世界から放り出される運命なのかもしれない。

世間では今回の事態を「緑の特異点」と呼び、安易な回転を禁ずるデモが各地で発生している。一方で、「別次元のマリモなら、もっと効率よく光合成してくれるのでは?」という身勝手な期待を寄せる過激派も増殖中だ。物理的破壊、幾何学的パニック、そして時空の崩壊。マリモ連邦が次に手にするのは、永遠のエネルギーか、それとも破滅か。今、連邦周辺の湖面には、かつてないほど濃い緑の霧が立ち込め、彼らの「実験」が、まだ終わっていないことを無言で物語っている。

筆者:緑藻類文明評論家・千代田苔夫