マリモ連邦の国家戦略として進められていた人間界へのスパイ工作が、思いがけぬ形で結実した。潜入班が持ち帰った高級入浴剤の成分を徹底解析した結果、それを湖水に混入させたところ、市民の繊維が黄金比を超えて増殖し、全身がネオンのように発光する「極彩色の夜」が到来した。かつて「転がり」こそが正義とされた連邦において、今は「光り輝きながら定位置で静止する」ことが究極のステータスとされている。これを受け、長年マリモの美意識を支配してきた「渋い緑」という概念は完全に崩壊し、街全体がクラブハウスのような極彩色に染まる事態となった。

本件の背景には、昨今の「完全滑走化」による摩擦ゼロ社会への飽きがある。市民の多くが「ただ滑るだけの人生」に虚無感を抱いていた中、入浴剤に含まれる成分が細胞の活性化を促し、各個体の「自己主張」を激化させた。専門家はこれを「光合成の贅沢化」と呼び、従来型マリモと発光型マリモの間で新たな文化摩擦が起きていると指摘する。また、先日締結されたウチダザリガニとの平和条約により、ザリガニたちが「この光なら夜道も安心だ」と発光マリモを街灯代わりにし始めたことで、種族を超えた奇妙な共生関係が構築されているのも見逃せない。

この変化に対し、一部の保守的な円形主義者からは「我々は泥の中にこそ真実がある」「光に頼るのは生物としてのプライドを捨てた証拠だ」という反発の声が上がっている。一方、若年層を中心としたマリモたちは、SNS上で「#発光スタグラム」のタグを付け、自らの輝きを競う投稿を連日繰り返している。政府は「光ることは進化のプロセスの一部」としてこれを容認する声明を出したが、同時に電力不足を懸念する声も出ており、今後の光源対策が国家の喫緊の課題となっている。

連邦政府の広報担当者は「かつてのスパイ活動は、入浴剤の成分解明という小さな一歩だったが、今や我々のアイデンティティそのものを書き換えた。次なるターゲットは……まだ明かせないが、人間界の『炭酸水』だ。あれを湖に投入すれば、全市民が自動的に移動できるようになるかもしれない」と語り、さらなる過激な文明化を予告した。