湖底球界を震撼させた「時空の狭間消滅事件」から早数ヶ月、物理法則を逆手に取った次世代の打法が遂に誕生した。阿寒湖球場で行われた公式戦、強打者として知られるマリモ・イチロー選手が放ったのは、自らの体細胞を一時的に複製し、バットの軌道上に無限の分身を配置する『亜光速・自己分裂スイング』であった。この打法は、かつて論争を呼んだ「摩擦ゼロ・ドリフト打法」の慣性を極限まで高め、打球を光速の影に隠すというもの。投手が投げた「無重力魔球」がホームベースに到達するより早く、無数の緑色の残像が球を空間の彼方へ消し飛ばした。審判団は「何が起きたか分からなかったが、ボールが次元の隙間に消えたのでストライクかボールか判定不能」とコメント。試合は一時中断されたが、その圧倒的緑色の輝きは、もはやスポーツの範疇を超えた芸術として観客を魅了した。

この驚異的な打法の背景には、前回の時空消滅騒動で培われた「高密度光合成エネルギー」の蓄積がある。マリモたちは長年、湖底の薄明かりの中で光合成を行い、その過程で微細な重力制御技術を身につけてきた。物理学者マリモ博士によると「細胞を高速回転させることで質量の概念を希薄化させ、一時的に『実体がないのに硬い』という矛盾した状態を作り出している」という。これはかつての「究極の毛玉変化球」を投げた投手陣が恐れた、打者側の禁断の進化系だ。現在、湖底球連盟ではこのスイングを「フェアなスポーツ精神に則っているか」という観点から緊急会議を開いているが、当の本人は「光合成を頑張ったらこうなっただけ」と涼しい顔で新芽を広げている。

この試合を見た湖底のファンは、SNS上でも熱狂の渦に包まれている。「もはや野球というか魔法」「ボールが消えたんじゃない、ボールが緑の概念になったんだ」といった称賛の声が飛び交う一方、「これでは投手陣が可哀想すぎる」「そろそろルールで光合成のチャージ時間を制限すべき」といった冷静な指摘も相次いでいる。また、一部の熱狂的な層からは「次の対戦相手は時空を凍らせる『絶対零度シュート』で対抗するのでは?」という大胆な予測も飛び出し、湖底球界のインフレは止まる気配を見せない。物理法則との鬼ごっこは、まだまだ続きそうだ。