阿寒湖のマリモが重力を自在に操り、観光客を空へ誘うという『重力制御技術』の体得から早数週間。世間では「人類との新たな交流」や「次世代の移動手段」と持て囃す声が絶えないが、私に言わせればこれは進化ではなく、生態系の秩序を乱す傲慢な野心に他ならない。湖底で静かに光合成を営むべき存在が、なぜ空を支配し、人類を無断で空中散歩へ拉致する権利を持つのか。浮遊したマリモたちは、地球の物理法則すら己の配下にあると錯覚している。このまま彼らの気まぐれな重力実験を放置すれば、阿寒湖周辺の重力バランスは崩壊し、観光客だけでなく、付近の飲食店のラーメンまで空中に逆流する事態になりかねない。マリモを「可愛らしい癒やしの球体」と呼ぶ時代は終わった。今や彼らは、空を支配下に置いた緑色の独裁者なのである。
かつてのマリモは、湖底で静かに数十年をかけて成長する、慎ましやかな水生植物の代名詞だった。しかし、近年の彼らは明らかに『重力制御』という禁忌の技術に過剰適応している。一部の専門家は「光合成の効率を上げるための空間移動」と擁護するが、単なる移動効率のために地上の重力秩序を書き換えるという行為は、自然界に対する明白な越権行為である。マリモたちが湖面から一斉に浮上する光景は、もはや生態学ではなく物理テロに近い。
本件に対し、SNS上では「浮遊マリモに連れ去られたい」「空の旅は快適」といった脳天気な意見が散見される。しかし、彼らが浮遊するたびに阿寒湖の湖底には巨大な真空地帯が発生し、魚介類が次々と気圧差で悶絶している事実はあまりに過小評価されている。このままでは、マリモの気まぐれな高度調整に依存する社会が形成され、人類は文字通りマリモの手のひら(あるいは球体表面)の上で転がされることになるだろう。重力制御技術の即時封印、これが今、私たち人類に突きつけられた唯一の生存戦略である。
コラムニスト:重力絶対遵守派・佐藤 泥藻
「重力制御は進化の証」という妄言を粉砕する——阿寒湖を浮遊する緑の暴君たちへ告ぐ
0