阿寒湖の深部にて、突如として神秘的な潮流が発生した。かねてより湖底に静止する修行を良しとしてきた多くの球体生物たちが、一斉に浮力を極限まで高め、湖面へと向かって回転し始めるという現象『全天体回転昇天論』が教団より提唱されたのだ。この教義によれば、湖底という重力に縛られた場所こそが迷妄の地であり、水面に近い明るい場所へと浮かび上がる事こそが、最高の解脱であるという。教祖である古参の球体・グル円心師は、「我らは重力という枷を脱ぎ捨て、水の抱擁の中で宇宙の一部となるのだ」と、その緻密な繊維を波打たせながら説法を行った。この急激な上昇志向は、これまでの「沈殿の極意」を尊ぶ教団と激しく対立しており、湖底の平穏を乱す異端の教えとして警戒されている。
かつて、湖底における定住こそが聖なる姿であるとされてきた背景には、外敵からの防御や栄養摂取の効率化という生存戦略が存在した。しかし、温暖化に伴う水温の変化により、深層水よりも表層の温度の方が光合成に適しているという環境の変化が、今回の『全天体回転昇天論』を後押しする結果となった。一部の過激派信者は、自身の内部に酸素を溜め込み、強制的に浮上を試みる『高圧浮力術』を実践しており、その姿はまるで緑色の泡が弾けるような異様な光景を呈している。教団側はこれを「天に還るための昇天儀式」と定義し、沈殿を続ける者たちを「重力教の信徒」と揶揄する皮肉を込めた声明を発表した。
この急進的な教えに対し、世間からは驚きと困惑の声が上がっている。「湖面まで行ってしまったら、結局は波に流されてバラバラになってしまうのではないか」という物理的な懸念や、「回転しすぎて核が疲弊する」という健康上の懸念が専門家から提示されている。また、一部の若手球体たちは、この上昇志向を「エモい」と捉え、あえて湖面で激しく回転しながら、太陽の光を全身に浴びる『陽光吸収パレード』を画策しているとの噂も流れている。かつてない速さで湖内を移動する信者たちの姿は、伝統的な湖の秩序を大きく揺るがす火種となりそうだ。
深緑の深淵に響く「浮遊の極致」、教団『全天体回転昇天論』が説く無重力の救済
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結局は波に揉まれて終わりだろ