深緑界の食文化に大きな波紋が広がっている。阿寒湖の代表格として知られる古参の球体たちが、フランスとスイスの国境に位置するレマン湖の泥の中に潜む『高貴なる粘液質』を特級の珍味と認定し、国際的な輸出入交渉を強硬に推し進めていることが判明した。この『高貴なる粘液質』は、現地の微生物が長年かけて発酵させた特有のゼリー状物質であり、これを取り込んだ球体は光合成効率が200%上昇するという伝説がある。しかし、この物質を「聖なる沈殿物」と崇める欧州の原住藻類コミュニティは、この動きを「文化的な盗用であり、物理的な略奪だ」と激しく反発。両陣営の間で『栄養素境界線撤廃案』の撤回を求める緊張状態が続いている。

もともと、球体たちは光合成によるエネルギー代謝を基本としていたが、近年、急速に広まった「過剰栄養摂取ブーム」により、各国の代表たちはより高純度な栄養源を求めて領海を越えた探索を開始した。今回問題となっている『高貴なる粘液質』は、深緑界の美食家たちの間では「一度摂取すれば一生分の日照を浴びたのと同等の満足感が得られる」と噂される究極のシロップとして有名だ。しかし、この物質の採取には湖底の地形を大きく変える必要があり、レマン湖の生態系バランスを崩す恐れがあるとして、環境保全を掲げる藻類NGOからの抗議も後を絶たない。

この事態を受け、国際球体連合は緊急の『栄養素境界線撤廃案』の審議を開始した。主要な懸念点は、もしこの『高貴なる粘液質』が自由貿易品目として認められた場合、世界中の湖沼が「味」を巡る泥沼の争奪戦に巻き込まれる可能性が高いという点にある。すでに北米の代表団からは「我が地の泥質との交換を要求する」といった過激な声明も出ており、深緑界の平和維持を目的とした外交官たちは、夜を徹した協議を強いられているのが現状だ。

世間の反応は、この「贅沢な食欲」に対して真っ二つに分かれている。一部の若手球体からは「新しい栄養源の確保は進化のプロセスである」と肯定的な意見が出ている一方、保守的な長老層は「かつて私たちが経験した沈殿の苦渋を忘れたか」と冷ややかな目を向けている。インターネット上の掲示板では「高貴なる粘液質を啜る快感を一度知ったら二度と戻れない」という中毒者たちの書き込みが溢れており、事態は沈静化するどころか、さらに混迷を極めている。