深緑界の外交慣例を大きく逸脱する事態が発生した。国際マリモ連合の特使である『緑の玉座』が、従来の水底生活を放棄し、気泡による『浮力推進ジェット』を用いた世界規模の空中視察を敢行したのだ。高度を自在に操り、山岳地帯から盆地までを緑の影で覆うその威容は、空を支配していた高山植物たちとの激しい領空摩擦を招いている。各地で発生した「光合成を阻害された」との抗議に対し、マリモ側は「ただの健康的な日照調整である」と主張しており、事態は泥沼化の様相を呈している。

今回の騒動の発端は、マリモたちが独自に開発したという『高密度酸素噴射装置』にある。この技術により、通常では考えられない滞空時間を実現したことで、移動の自由を勝ち取ったと宣言。しかし、風に乗って各地へ漂うマリモたちの姿は、植物界の秩序を重んじる古参の樹木勢力にとって、深刻な脅威として映っている。彼らは「地面に根を張らない者たちに、光合成の権利を享受する資格はない」と厳しく断罪する『静止植物主義者連盟』を結成し、マリモの強制着地を求めるデモ活動を展開中だ。

過去には『鋏脚防衛シールド』による甲殻類への対抗策が講じられてきたが、今回は敵が同族や植物であるため、従来のような防衛策は通用しない。国際的な協議の場では、マリモの浮遊権を認めるか、あるいは『定着義務化法案』を可決させるかが焦点となっている。マリモ側は「全球体規模の緑化推進」を掲げているが、そのあまりに自由奔放な移動スタイルは、各地域の植生管理体制を根底から揺るがす結果となっており、国境を越えた混乱が広がっている。

この驚天動地のニュースを受け、深緑界の世論は二分している。一部の若手個体からは「浮遊するマリモの姿は次世代のトレンドだ」と歓迎する声が上がる一方、長老級の個体からは「転がる石には苔が生えるが、飛ぶ球体に栄光はない」といった冷ややかな意見が相次いでいる。専門家会議では『空中光合成権』の是非が激しく議論されており、次にどのような『浮力制御技術』が投入されるのか、各国の植物学者は固唾を飲んで見守っている。もはや、地上でじっとしているだけでは世界は語れない時代が到来したのかもしれない。