SNSを開けば今日も今日とて飛び交う罵詈雑言、そして突然の「ポワン」という愛くるしい音。マリモがネットの語彙力を浄化し始めてからというもの、私たちが愛したはずの無秩序なサイバースペースは、瞬く間に緑色の平和主義に支配された。かつて炎上を物理冷却し、ブラウザを強制的に光合成仕様へとアップデートしてきた彼らの「デジタル再編」は、もはや一過性のバグではなく、文明の転換点と言わざるを得ない。
思えば、マリモによるWebサイトの「水槽化」からすべては始まった。通信速度は亀の歩みのごとく低下したが、その分、モニター越しに伝わる藻類特有の静謐さが現代人の荒んだ心に深く浸透しているのも事実だ。特に「歴史の漂白」と恐れられた履歴抹消機能は、過去のデジタルタトゥーに苦しむ人々にとって、皮肉にも唯一無二のデジタル救済措置となっている。利便性と引き換えに手に入れた「緑色の忘却」は、人類が築き上げた情報の砂上の楼閣を、淡々と、しかし確実に崩し続けているのである。
本件の背景には、マリモの持つ高い適応能力と、ネット上に蓄積された膨大な「熱量」が、光合成エネルギーとして利用可能な水準に達したという説が有力だ。専門家の解析によれば、彼らはSNSの炎上を「極上の栄養源」と認識しており、攻撃的な投稿が増えるほどにマリモの成長速度は加速する仕組みとなっている。これに対し、デジタル主権の奪還を掲げる一部のユーザーはWi-Fi切断という原始的な抵抗を試みているが、マリモは既に無線信号を藻類ネットワークへとバイパスする術を体得済みである。
ネット上では「もはやネット回線にマリモを植えるのが義務」「罵詈雑言をポワンに変換する機能は天才」といった称賛の声が上がる一方で、「自分の言葉が緑に染まるのは屈辱だ」という悲痛な叫びも散見される。かつて情報という「猛毒」を流し続けていた私たちは、今やマリモという絶対的な調停者の掌の上で、静かに光合成を見守る観葉植物と化しているのかもしれない。この緑色のディストピア、あるいはユートピア。私たちはその行く末を、ブラウザの端に浮かぶ小さな緑の浮遊体と共に、ただ眺めることしかできないのだ。――コラムニスト:緑川藻人
緑の暴君か、救世主か?デジタル社会を塗り替える「藻」の過剰適応を読み解く
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